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セオリー通りの「初球送りバント」に異論あり!

2014.10.21
無死一塁、あるいは無死二塁といった好機で、簡単に送りバントをするチームが昨今減ってきているように感じる。近年、この予定調和に風穴をあける姿勢が見られる。


送りバントの前に、やれることが沢山ある

 単純な送りバントが否定されはじめた理由として、送りバントがあまりに「セオリー化」してしまったことが挙げられる。たとえば無死一塁の場面で、バッターが初球に送りバントを決めれば、一見リズミカルな攻撃に映る。しかし守備側にとっては、送りバントが必ずしも痛手になるとは限らない。むしろ、バッターが送りバントをしやすい球をピッチャーが投げることで、アウトカウントを1つ“稼ぎにいく”こともしばしばだ。セオリー化された送りバントは、守備側に何のプレッシャーも与えないのだ。まして送りバントを失敗しようものなら、攻撃側にとって大ブレーキにもなる。

 攻撃側にとって、思考停止な送りバントをすることが、果たしてどれほどの意味を持つのか。もちろん、走者一塁はいわゆる「得点圏」ではないとされるが、ランナーが一塁にいる状況を、「まだチャンスではない」ととらえるのは、視野が狭すぎやしないか。

 こうして考えると、無死一塁などの場面で、攻撃側に次のような発想が生まれる。
「送りバントを簡単にはやらなくてもいいよね。その前にやれることがある」(岐阜県・40代の監督)。
「送りバントをさせるために、相手ピッチャーが気の抜けた球を投げてくるのなら、それを狙い打ちしてチャンスを広げるほうが賢い」(愛知県・30代の監督)。

 となれば、初球から送りバントをするのではなく、相手ピッチャーや守備陣を攪乱(かくらん)する作戦を、ぜひとも実行したい。たとえば、バントの構えをした上で見送れば、守備側は「ダッシュしては戻り」を繰り返す羽目になり、落ち着きを失う。ピッチャーの投球数はその分増えるし、ランナーを牽制したり、送りバント以外の作戦も頭に置く必要も出てくる。ピッチャーに精神的疲労を感じさせれば、勝手に自滅してくれる展開も描ける。

 もちろん、送りバントが全て悪いわけではない。ウエイティング(見送り)を挟めば、場合によってはたちまち2ストライクと追い込まれてしまうが、そこからでも“1球で決める”バント力があれば何も問題はない。要は、メリットの少ない「初球でバントを決める」から、十分にやりたいことをやったうえで「1球でバントを決める」という作戦へと移行しつつあるのだ。


盗塁ができるチームは勝利を得やすい?

 もう一つ、走者一塁の場面で有効なのが盗塁だ。送りバントと決めつけて悠長に構える敵軍を、一気に窮地へ追い込むことができる。実際に、盗塁ができるチームは勝利を得やすい。データを挙げよう。今春の東海大会、および今夏・今秋の愛知大会において、筆者が試合開始から終了まで観戦することができた試合のうち、1つでも盗塁が記録された試合は29試合あった。そのうち、盗塁を決めたチーム(両チームが盗塁を決めている場合は、成功率が高い側)は、20勝7敗(2試合は両チームが同じ盗塁数のため除外)と圧倒的な勝率を誇っていた。

 この数字から、送りバントでランナーを1つ先の塁へ進めるよりも、盗塁で1つ先の塁を陥れるほうが勝利へ近づくという見方もできる。アウトカウントが増えないままランナーが進塁することはもちろん、セオリー通りと待ち構えていた想定が崩れることによる守備側の精神的ダメージも大きいのだろう。確実にバントを決める力を備えたうえで、送りバント至上主義を脱し、相手の嫌がる攻撃を展開したいものだ。


  


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