学校・チーム

仙台育英の走塁メソッド|「得点圏」の定義とは何か? ランナー2塁は得点圏ではない

2022.9.22

2022年夏の甲子園、悲願の東北勢初優勝を飾った仙台育英高校野球部。そんな日本一の高校の走塁メソッドの一端を、書籍『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』(大利実/カンゼン)から紹介いたします。今回は「得点圏」の定義についてです。


高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意|仙台育英

「得点圏」の定義とは何か? ランナー2塁は得点圏ではない

「走塁は、『得点圏は何塁なのか?』に尽きると思います」

取材早々、核心に近いことを呟いた須江監督。
「チームとして、得点圏の定義を明確にして、そこを作るためにどんな攻撃をすればいいかを考える。指導者によって、得点圏の定義はわかれると思います」

アウトカウントにかかわらず、「得点圏=走者二塁」と考えるのが一般的だろう。野球の記録で使われる「得点圏打率」も、ここから算出されている。須江監督がわざわざこの話を持ち出すということは、この定義とは〝違う〟ことになる。
「私は、『若いアウトカウントでのランナー三塁』が得点圏だと考えています。簡単に言えば、ノーアウト三塁が理想です。得点が入りやすい状況こそが得点圏。この考えのベースは、中学軟式野球にあります。軟式はなかなかヒットが出ないうえに、外野手の守備位置が浅く、ランナー二塁からヒット1本でホームを踏むのが難しい。いかに、ノーアウト三塁、1アウト三塁を作るかを重要視していました。高校野球は硬球と金属バットの組み合わせのため、軟式に比142べると長打が出やすく、得点も入りやすいですが、それでも得点圏の定義は変わっていません。得点が入りやすい高校野球だからこそ、最終的にクロスゲームになったときに、走塁が勝敗を分けると思っています」
「得点圏」に関して、個人的に思い出すエピソードがある。

2016年1月に、富山県野球協議会主催の指導者講習会が開催された。討論会のゲストに招かれたのが、前年夏に全国制覇を果たした東海大相模・門馬敬治監督と、当時は仙台育英秀光中を率いていた須江監督である。高校の日本一監督と中学の日本一監督が、同じ舞台に上がる奇跡のような場で、須江監督は門馬監督に問いを投げかけた。
「門馬さんの考える得点圏とは何塁ですか」

門馬監督は、「得点圏?」と一瞬悩んだあと、「全部。ランナーがいなくても、ホームランで点が入るでしょう」と答えた。何とも、門馬監督らしい答えだ。そもそもの発想が違う。「絶対的な正解」はどこにも存在せず、指導者によって考え方が変わるからこそ面白い。

仙台育英の場合は、ノーアウト三塁、1アウト三塁を作ることに力を注ぐ。走者一塁から積極的に動くのもそのためだ。冒頭に記した、野球の競技性にリンクする話であり、何かしらのプレーで塁をまたぐことで、得点圏を作り出すことができる
「うちのチームは、得点圏を作るために大きなエネルギーを使っています。ある意味では、その気持ちが強すぎて、ストレスがかかっているかもしれません。得点圏を作れてしまえば、あとは内野ゴロのゴロゴーやスクイズなど、さまざまな攻め方で得点を取れる。選手たちは、『若いアウトカウントでランナー三塁の状況を作れば、得点は入る』と思っているはずです」

(続きは書籍でお楽しみください)


書籍情報

「高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意」

著・ 大利実
カンゼン
定価1870円


【目次】

プロフェッショナルの視点
千葉ロッテマリーンズ
和田康士朗
失敗を恐れずにスタートを切る。試合では勇気と積極性が大事

元東海大相模 門馬敬治監督
走塁は、相手の力量によって落ちることがない技術

山梨学院 吉田洸二監督 吉田健人部長
機動力だけに頼らない。的確な判断を伴った走塁を日々磨く

トレーニングコーチ 塩多雅矢
正しい体の使い方を覚えれば、誰でも今の自分より速くなる

仙台育英 須江航監督
野球の競技特性を知ることで、走塁の概念・価値観が変わる

筑波大学硬式野球部監督 川村卓准教授
「動作解析」からひも解く、盗塁成否のキーポイント

前橋育英 荒井直樹監督 清水陽介部長
チームの約束事を徹底して、守りと投手を鍛えて足を封じる

プロフェッショナルの視点
中日ドラゴンズ
荒木雅博一軍内野守備走塁コーチ
〝 次のバッターのため〟の走塁技術。得意分野で力を発揮し、チームに貢献する

仙台育英 須江 航監督

1983年4月9日生まれ、埼玉県出身。仙台育英では2年秋からグラウンドマネージャーを務め、3年時には春夏連続で記録員として甲子園入り。八戸大を卒業後、2006年に仙台育英秀光中等教育学校の野球部監督に就任。中学野球の指導者として実績を残し、2018年より現職。


PICK UP!

新着情報