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【導く力 自走する集団作り】「良き伝統を作り上げる」(高松商業・長尾健司監督)

2022.8.17

長らく甲子園から遠ざかっていた名門中の名門を、わずか就任2年で20年ぶりの聖地に導いた高松商業・長尾健司監督。今夏の甲子園でも52年ぶりのベスト8への進出を決めた。そんな長尾監督の書籍『導く力 自走する集団作り』(竹書房)より、今回は第二章『良き伝統を作り上げる』の一部を抜粋して紹介します。


厳しい上下関係を撤廃する

良き伝統があれば、悪しき伝統もある。

就任時、野球部には昔ながらの厳しい上下関係がまだ残っていた。先輩が後輩に正座を命じる場面を何度か目にした。いわゆる、体育会の“指導”だ。朝練のときは、1年生が1時間近く早く来て、練習の準備をする。昼休みにも1年生がグラウンドに出て、放課後の練習の準備を担う。先輩の服をたたむ役目まであった。もはや、これを「伝統」と呼んでいいのかはわからない。
さらに言えば、1年生はグラウンドでの練習がほとんどできず、トレーニングや校舎の周りを走ることがメイン。「よっしゃ、高商で頑張って、甲子園に行くぞ!」と高いモチベーションで入部してきても、なかなかそれを持続できない環境になっていたのだ。これがすべてではないだろうが、20年も甲子園から遠ざかっていた理由は、こうした環境にも原因があったのではないか。
正直に言うと、OBもこうしたやり方を認めているのかと思っていたが、「おかしいだろう」と思っている方もいた。ある日、学校の周りを散歩していたら、「1年生に早く来させるのは、もうやめさせろ。親がご飯を作るのだって大変やろう。いつまでやってんや!」と、いきなり怒鳴られたのだ。びっくりしたが、理解のある方もいたのだとホッとして、すぐにやめさせた。昼休みの練習準備も、私が赴任してしばらくしてからは3学年で行うようになった。

ただ、すべてがうまく切り替わったわけではない。当時の2年生から不満が噴出したのだ。下積みの1年間がようやく終わり、次は自分たちが1年生に指示を出せると思っていたところで、中学校からよくわからない新しい監督が来て、やり方を変えることになった。しかも、高松商のOBではない。そう考えると、たしかにつまらないだろう。

私は不満を顕わにしていた2年生と、直接話をした。
「ぼくらは、1年生のときの下積みがあったことで成長したと思います。1年生に、それを教えることの何が悪いんですか?」
「正直に言っていいか? 1年生から成長したと言うけど、2年生になったお前らを見ていると、どのぐらい成長したのかおれにはわからない。逆に、何もしなくなったように見えるけど、違うか? 1年生のときにはグラウンド整備をやって、ベースを磨いて、先輩の服もたたんでいたんだよな。今は何もしていないよな? 何が成長したんだ?」
「いや……、精神的に強くなったと思います」
「今、何も残ってないだろう。2年生でも同じことを続けていたらすごいけどな」

ふてくされた表情をしていたが、こうした組織を変えないことには、強いチームを作れないのは明らかだった。

かつては、「厳しい上下関係で精神的に強くなった」と言われた時代もあったが、本当にそうなのだろうか。理不尽な上下関係に耐え切れず、野球部を辞めていった者もたくさんいたはずだ。決して、彼らの心が弱かったとは思わない。もっと別のやり方で、心を育む方法はきっとあったはずだ。

監督に就いたばかりの4月には、こんな事件があった。

2年生が、1年生に対してティーバッティングのトス上げを当たり前のように頼むと、「自分の練習があるので」と拒否をした。怒った2年生が声を荒らげ、その場で正座を命じた。納得できない1年生が帰宅後、親に話をしたことで、保護者から私のもとに電話がかかってきた。すべての不満を隠すことなく伝えてくれた。
「保護者会もタテ社会で、1年生の親はグラウンドに入れないとか、ここに座ってはいけないとか、いろいろなルールがあるんです。長尾先生、こんな組織でいいんですか?」

これも保護者会の代表にお願いして、意味のない慣習をなくしてもらうようにした。

春の段階では、チーム内の環境を整備していかなければ、野球に集中できない状況だった。


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