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【導く力 自走する集団作り】「指導者としての原点」(高松商業・長尾健司監督)

2022.8.16

長らく甲子園から遠ざかっていた名門中の名門を、わずか就任2年で20年ぶりの聖地に導いた高松商業・長尾健司監督。今夏の甲子園でも52年ぶりのベスト8への進出を決めた。そんな長尾監督の書籍『導く力 自走する集団作り』(竹書房)より、今回は第一章『指導者としての原点』の一部を抜粋して紹介します。


やらされる3時間より自らやる30分

放課後の練習前には、ホワイトボードにタイムスケジュールを書き出し、メニューの狙いや目的を文字で書き留めるようにした。黒板を使って、野球の授業を進めているようなイメージだ。キャッチボールでもバッティングでも、狙いがぼやけると、効果が薄れてしまう。時間的な量を増やすことには限界があったので、取り組みの質を高めることに力を注いだ。

選手たちには、『練習心得』として、次の5つのことを伝えていた。
①目的意識の高い練習
 常に自分の課題を決定し、目指すべきプレーを明確にして練習すること。
②効率の良い練習
 時間を守り、各人が役割を分担すること。オープンスペースを活用し、同時進行の練習を行う。
③実戦に即した練習
 常に実戦を想定し、試合と同じ状況、設定で練習に臨むこと。
④集中した練習
 心血を注いだ一の練習は、並の十の練習に匹敵する。
⑤日誌の活用
 日々の練習を反省し、次回の練習がより意識された質の高い練習となるようにする。
⑥自主練習の活用
 やらされる3時間より、自らやる30分。全体練習での反省点、各個人に課せられた課題を自主練習により克服する。
現在も、このベースとなる部分は同じだ。特に大事にしているのが、⑥の自主練習の活用であり、指導者にやらされる3時間よりも、自らが本気になって取り組む30分に意味がある。

価値ある答え=考えた答え

練習試合のときには、「今日は相手のピッチャーから何点取れそう?」「どうやって点を取っていく?」「ノックを見て、相手の弱みがわかった人はいる?」「ピッチャーのクセはどう? どこを見たらスタートを切れる?」と、とにかく問いかけた。授業と同じように、なるべく答えを言わず、選手たちに考えさせるのが狙いだ。

たまに、「それは違うだろう」という考えも出てくるが、大事なのは頭ごなしに否定しないこと。否定すると、その選手は考えを述べるのが怖くなってしまう。まずは受け入れたうえで、「こういう考えもあると思うよ」と話を広げていく。このやり方は、高松商でも変わっていない。

そもそも、間違った考えや答えなど存在しないと思っている。
「価値ある答え」は、「考えた答え」であり、「正しい答え」ではない。

これが、私の持論である。

大人はすぐに「正しい答え」を求めようとするが、その選択が正しいかどうかは誰にもわからない。正しさを計る尺度は、結果論であることがほとんどだ。人生においてもそうだろう。死ぬときになってみなければ、選んだ答えが本当に正しかったかはわからないものだ。

だからこそ、「考えた答え」に価値がある。それが結果に結びつかなかったとしても、考えて、考えて、考え抜いたすえに出てきた答えには重みがある。指導者が、「こうやってやれよ」と一言で指示するよりも、はるかに価値が高い。

目次

第1章 指導者としての原点
「失敗」と書いて、「成長」と読む/トップダウンの罰に意味はない/Education=引き出す/プロに進んだ剛腕左腕を攻略 ほか

第2章 良き伝統を作り上げる
厳しい上下関係を撤廃する/全部員が平等に練習できる環境を作る/多くの選手を試合で起用する/負けたのは選手の責任 ほか

第3章 やんちゃ軍団が果たしたセンバツ準優勝
明治神宮大会で起きた奇跡/試合の空気を変える男になれ/逆転勝ちの多さこそ主体性の表れ/今も残る決勝戦での後悔 ほか

第4章 4元号での甲子園勝利
センバツ準優勝後に苦しんだ2年間/夏に勝つための考え方/選手の考えを尊重した継投/最強打者を二番に置く打順 ほか

第5章 心技体を磨き上げる
考えもしなかったイチローさんからの直接指導/ピッチングの基本は「釣り竿」にあり/「もうダメだ」ではなく「まだダメだ」 ほか

終章 私の原点〜学びの大切さ
ひそかな夢は甲子園で早稲田実と戦うこと/『勝利の女神は謙虚と笑いを好む』/「優」しい人間が「勝」つ

書籍情報

「導く力 自走する集団作り」(著・ 長尾健司 高松商業野球部監督)
竹書房
定価1800円+税




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