トレーニング

【履正社】名将によるバッティング上達メソッド!(岡田龍生 監督)

2021.11.10

〈技術編〉

1.スタンドティーで打撃強化

→ミートポイントを確認できる

「選手同士で、斜めから普通に投げるティーはやっていません。2年ほど前にやめました」

東洋大姫路から日本体育大に進み、大学卒業後は鷺宮製作所でプレーした岡田監督。高校時代は3年春センバツでベスト4に勝ち進んだが、高校通算本塁打数を聞くと「0本。今の選手は、ぼくよりもはるかに飛ばす力がある」と笑う。現役を終えたあと、大阪・桜宮のコーチを2年務め、1987年から履正社の監督に就いた。そこから30年近く、斜め前からのティーバッティングは当たり前のようにやってきたという。

「誰に聞いても、弊害があると。実戦で斜め前からボールがくることはないし、それをネットに打ち込もうとしたら、引っ張る打球を打っていることになる。どうしても、バットが外側から出るクセが付いてしまう。落合博満さん(元巨人など)も、『斜めからのティーは意味がない』とよく言われていましたよね。高校生を見ていると、自分の打ちやすいところでしか打っていない。トスを上げる投げ手のレベルが高ければいいんですけど、選手同士でやると、なかなかそこまでいきません」

偉大な教え子のひとりである山田哲人(ヤクルト)は、杉村繁一軍打撃コーチの指導のもと、数種類のティーバッティングで技術を高めた。当然、岡田監督もその話を知ってはいるが、「プロは投げ手のレベルが高いから成り立つ」と口にする。それだけ、ティーバッティングは投げ手の重要度が高い。履正社でも、真横や真後ろからのティーに取り組むが、トスを上げるのは監督やコーチの役目になっている。

その点、スタンドティーは止まっているボールを打つので、投げ手の質が問われない(そもそも投げ手が不要)。
「どのポイントでどのようにして打てば、どんな打球が飛んでいくか。それを毎回、確認することができる。右バッターでヘッドがかぶっていたら、自分の左側に飛び、ヘッドの出が悪ければ右側に飛ぶ。まずは、真ん中のコースをどうやって真っすぐ飛ばすか。自分で考えながら、取り組めます」

真ん中を真っすぐ飛ばすのを基本としたうえで、あとは自分の立ち位置を変えることで、さまざまなコースに対応した打ち方を学ぶことができる。

一方で、スタンドティーのデメリットとして挙がるのが、器具そのものの耐久性の問題だ。ボールを載せる先端部分が壊れやすく、買い替えの頻度が高い。また、スイングの衝撃によってティー台が倒れることもあり、それをわざわざ起こすのに手間がかかる。こうした煩わしさから、スタンドティーに力を入れようとしても長続きしないケースがある。

当初、岡田監督もその点を危惧していたが、優れもののスタンドティーに出会ったことで、悩みが解消された。履正社では、地元・大阪市の中小企業が開発した特殊なスタンドティー「サクゴエPUT式」を使用している。ボールを打つと、先端部だけがパタンと倒れ、その後すぐに「起き上がりこぼし」のように自力で戻ってくるのだ。ティー台と、ウレタン素材でできた先端部がチェーンでつながれていて、どんな衝撃を受けても元に戻る。ティー台が倒れることもない。
「昨夏の甲子園も、ある程度打つことができたので、スタンドティーの効果は高いと感じます」

値段は2万円ちょっと。それなりの価格ではあるが、安価なものを買って、何度も買い替えるよりは、費用対効果は高い。今では、履正社の強打線を作るうえで欠かせないアイテムとなっている。

2.ボディゾーンで打つ

→骨盤の幅の中でとらえる

岡田監督に、事前に調べてきたカウント別打率を見せると、「ボディゾーン」というキーワードを挙げた。
「うちが大事にしているのが、ボディゾーンでボールをとらえることです。体の構造上、もっとも力が入るところ。これができれば、引き付けて打てるようになり、ボール球の見極めにつながる。それが、2ストライク後の打率につながっているのだと思います」
「ボディゾーン=骨盤の幅の中でとらえること」という意味だ。このミートポイントを、スタンドティーで体に染み込ませていく。

「イメージとしては、ヘソはホームベースに向けたまま、ボールをとらえる。バッティングで大事なのは、ヘッドを走らせること。最初に体を回すのではなく、手が先に出た勢いによって体が回っていく。先に体が回ってしまうと、バットだけが後ろに残り、バットのヘッドが出てきません」

実際にピッチャーが投げる球を打とうと思えば、多少なりとも骨盤の回転は入り、ポイントは前になる。それでも練習の段階では、手を先に出す意識を徹底して植え付けていく。

練習ドリル①真横ティー

ヘソの前でとらえる
ボディゾーンで打つ感覚を養うのが、真横からのティーバッティングだ。投げ手はバッターと正対し、ヘソをめがけて速いトスを入れる。投げ手とバッターは、5メートルほどの距離を取る。
「空振りしたら、お腹に当たるぐらいのスピードで投げる。窮屈なところであっても、さばけるようになるための練習です。体が先に回転したら、まず打てません。バットでとらえてから、体が回っていく。ツイストに近いイメージを持たせています」

センター方向に、強いライナーを打ち返すのが理想となる。体が先に回ると、右バッターは右中間、左バッターは左中間方向へ飛んでいく。

3.割れを作る

→引き切ったところで待つ

ボディゾーンで打つためには、軸足に力をためた状態で投球を待ち、ピッチャーがボールをリリースするときには、バットを持った手をトップの近くに入れておく必要がある。
「選手によく言うのが、『弓道と一緒やぞ。弓を持った右手を後ろに引いたら、あとは的をめがけて離すだけ。バッターも、グリップを引いた状態を早く作りなさい。そうすれば、いつでも、〝さぁ、いらっしゃい?の状態ができる。引きながら離そうとしたり、引き切ったところからまた引こうとしたりするから、タイミングが合わなくなるんや』」
昨夏の甲子園を見ていても、履正社のバッター陣はトップに早く入り、自分の間合いでピッチャーと勝負できていた。だからこそ、体勢を崩されずに、ボディゾーンで打つことができる。

練習ドリル②ウォーキングスイング

間を作り出す
割れを作るために、歩きながらのスイングを取り入れている。後ろ足(左バッターであれば左足)を投手方向にステップすることによって、軸足(左足)に体重を乗せた状態でトップに入ることができる。
「中学生からピッチングマシンを打ち込んでいる弊害だと思いますが、イチ・ニ・サンのタイミングで打っている選手が多い。ステップと同時にスイングが始まっているので、変化球を混ぜられると、対応ができない。歩きながらスイングすることで、間(マ)を作れるようになってきます」


続きは本書から(書籍では写真を交えてより詳しく紹介されています)。



岡田龍生(おかだ・たつお)

1961年5月18日生まれ、大阪府出身。東洋大姫路では1979年センバツ大会に出場し、ベス
ト4。日体大、鷺宮製作所、桜宮高校野球部コーチを経て1987年に履正社高校野球部の監
督に就任。1997年に夏の大阪府大会を制し、初の甲子園出場を果たす。今春含めて、春
9回、夏4回、甲子園に出場。2019年夏に甲子園初優勝。

著者:大利実(おおとし みのる)

1977年生まれ、横浜市港南区出身。港南台高(現・横浜栄高)-成蹊大。スポーツライターの事務所を経て、2003年に独立。中学軟式野球や高校野球を中心に取材・執筆活動を行っている。『野球太郎』『中学野球太郎』(ナックルボールスタジアム)、『ベースボール神奈川』(侍athlete)などで執筆。著書に『中学の部活から学ぶ わが子をグングン伸ばす方法』(大空ポケット新書)、『高校野球 神奈川を戦う監督たち』『高校野球 神奈川を戦う監督たち2 神奈川の覇権を奪え! 』(日刊スポーツ出版社)、『101年目の高校野球「いまどき世代」の力を引き出す監督たち』『激戦 神奈川高校野球 新時代を戦う監督たち』(インプレス)、『高校野球継投論』(竹書房)、『高校野球界の監督がここまで明かす! 野球技術の極意』『高校野球界の監督がここまで明かす! 打撃技術の極意』(小社刊)などがある。2月1日から『育成年代に関わるすべての人へ ~中学野球の未来を創造するオンラインサロン~』を開設し、動画配信やZOOM交流会などを企画している。https://community.camp-fire.jp/projects/view/365384

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