学校・チーム

最後まで笑顔で野球をすることが、僕らの“甲子園”〜僕たちのナツタイ 2021 千葉聾学校〜

2021.7.13

「夏の頂点」を目指す気持ちはろう学校の選手も同じだ。関東8校ある「ろう学校野球部」の一つ、千葉聾学校の夏に密着した。障害のある選手たちは、高野連軟式大会と、関東聾学校野球大会の2つの頂点が目指せる。勝利と人間形成を目指し、努力する姿を追った。


千葉聾学校

千葉聾学校って?

聴力に障害のある児童、生徒に対して幼稚園・小学校・中学校・高等学校に準じる教育を施し、併せて障害による困難を補うために必要な知識、技能を授ける学校。千葉県内には他に筑波大学附属聴覚特別支援学校(市川)がある。千葉聾学校の監督・部長の以外の顧問は中村豊、川上浩一、高沢和哉、松野克洋、手塚清、中原憲汰、鶴岡徹、下口将、酒井健太郎、根橋沙也加、永井由理。

School Data

監督/藤田正樹
部長/野口 武 部員数/3年生1人、2年生3人、1年生5人(中学生10人)
創立1931年。最高成績は2016年関東聾学校野球大会優勝(軟式)。県高野連春季大会は〇25-0筑波大附聾、●1-8八千代松陰(3位)。

中高合同チームで築き上げた6年間の固い絆が自慢!


「野球部に入ると、仲間の大切さに気づき、困難を乗り越える力や、人を思いやる心が、育ちます。この力は『将来、社会に通用する力』です。野球部に入って素敵な中学生活にしよう!」。千葉聾野球部(以下チバロウ)の部活動資料には、藤田正樹監督の熱い想いが掲げられている。チバロウに入学する生徒は、中学生になると文化部、卓球、陸上、バレー、野球の中から部活動を選ぶことになる。


手話を交えて話す藤田監督。


昨年、創部初めて女子選手、持田琴音さん(中3)が入部した。

「野球はみんなが主役になれるスポーツ。失敗しても誰かが助けてあげられる。誰かの失敗をカバーできる。失敗してももう1回チャンスが回ってくる。一緒にやろう!」と藤田監督が呼びかけ、野球部は最も人気のある部活動になった。最初はみんな初心者だ。それが6年間で一つのチームになっていく。中高の監督を務める藤田監督は「素晴らしい野球は見せられないですが、みんなすごく良い子たちなんです。一生懸命やれる子たちであることには自信があります。卒業して、野球を続ける子が多いのが自慢です」と胸を張った。卒業生が初任給で買ったと思われるピカピカのグローブをはめて練習を手伝いに来てくれたときは、指導者になってよかったなと実感する。

目、表情、手話で意思疎通。ジェスチャーは大きく!がルール


障害のある選手が野球をする上で、ケガを防ぐためにチーム内で決めたルールがいくつかある。

① ボールから目を離さない。
② 後ろを向かない。
③ ジェスチャーを大きくする。
④ 声を出すことを遠慮しない。
⑤ 守備範囲のエリアを決めておく。
など。

「生徒たちは耳が聞こえにくいので、相手の目をしっかりと見て会話をします。声を出すことを躊躇する子もいますが、グラウンド内では大声を出さないと叱りますよ。最初はフライ捕球でぶつかることもありますが、次第に工夫するようになります」。失敗すると手話で確認しながら改善点を探す。練習中 は指導者も選手もジェスチャーを大きく、喜怒哀楽をはっきり表に出す。「将来のために『自分を表に出すこと』を、野球を通じて教えています」と続けた。  


名物階段上りでスタミナと筋力アップ!

ノックで好捕球を見せる大土主将。
目標は高野連軟式大会の勝利と、2016年以来の関東聾学校大会優勝だ。チバロウの強みは6年間で培ったチームワーク。成長記録ノートで個々の課題を明確化し、足りない練習は自主練習で補っている。技術練習のほかに、敷地内の階段上りや、冬場の100日2万スイングで体力をつけてきた。唯一の3年生、大土優凪主将は言う。「もちろん勝つことが目標。最後まで笑顔で野球をすることが僕にとっての“甲子園”です」。去年の3年生の分まで1試合でも多く戦いたいーー。最後の夏にかける思いは誰よりも強い。



顧問の数は合計13人。安全性を優先し部活動は最低2名の顧問が立ち合う。

Close up! ろう学校を指導して12年。「応援されるチーム」がテーマ



藤田監督は千葉県市原市出身、東海大付属市原望洋高校で主将を務め、東海大学では体育学部でコーチングを学んだ。卒業後、特別支援学校の体育教諭としてチバロウ5年、筑波大付属3年、チバロウ4年の計12年野球部を指導。「応援されるチーム作り~挨拶と返事ができる人間の育成~」をモットーとしている。「周りのことを考えない、自分中心の態度をすると本気で怒る。でも優しい先生」と選手たち。取材日の5月23日は39歳の誕生日の前日だったため、大土主将が得意の似顔絵をプレゼント。「LINEのアイコンにします」と満面の笑顔を見せた。


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