「夏の頂点」を目指す気持ちはろう学校の選手も同じだ。関東8校ある「ろう学校野球部」の一つ、千葉聾学校の夏に密着した。障害のある選手たちは、高野連軟式大会と、関東聾学校野球大会の2つの頂点が目指せる。勝利と人間形成を目指し、努力する姿を追った。
千葉聾学校
千葉聾学校って?聴力に障害のある児童、生徒に対して幼稚園・小学校・中学校・高等学校に準じる教育を施し、併せて障害による困難を補うために必要な知識、技能を授ける学校。千葉県内には他に筑波大学附属聴覚特別支援学校(市川)がある。千葉聾学校の監督・部長の以外の顧問は中村豊、川上浩一、高沢和哉、松野克洋、手塚清、中原憲汰、鶴岡徹、下口将、酒井健太郎、根橋沙也加、永井由理。
School Data
監督/藤田正樹
部長/野口 武 部員数/3年生1人、2年生3人、1年生5人(中学生10人)
創立1931年。最高成績は2016年関東聾学校野球大会優勝(軟式)。県高野連春季大会は〇25-0筑波大附聾、●1-8八千代松陰(3位)。
中高合同チームで築き上げた6年間の固い絆が自慢!
「野球部に入ると、仲間の大切さに気づき、困難を乗り越える力や、人を思いやる心が、育ちます。この力は『将来、社会に通用する力』です。野球部に入って素敵な中学生活にしよう!」。千葉聾野球部(以下チバロウ)の部活動資料には、藤田正樹監督の熱い想いが掲げられている。チバロウに入学する生徒は、中学生になると文化部、卓球、陸上、バレー、野球の中から部活動を選ぶことになる。


「野球はみんなが主役になれるスポーツ。失敗しても誰かが助けてあげられる。誰かの失敗をカバーできる。失敗してももう1回チャンスが回ってくる。一緒にやろう!」と藤田監督が呼びかけ、野球部は最も人気のある部活動になった。最初はみんな初心者だ。それが6年間で一つのチームになっていく。中高の監督を務める藤田監督は「素晴らしい野球は見せられないですが、みんなすごく良い子たちなんです。一生懸命やれる子たちであることには自信があります。卒業して、野球を続ける子が多いのが自慢です」と胸を張った。卒業生が初任給で買ったと思われるピカピカのグローブをはめて練習を手伝いに来てくれたときは、指導者になってよかったなと実感する。
目、表情、手話で意思疎通。ジェスチャーは大きく!がルール
障害のある選手が野球をする上で、ケガを防ぐためにチーム内で決めたルールがいくつかある。
① ボールから目を離さない。
② 後ろを向かない。
③ ジェスチャーを大きくする。
④ 声を出すことを遠慮しない。
⑤ 守備範囲のエリアを決めておく。
など。
「生徒たちは耳が聞こえにくいので、相手の目をしっかりと見て会話をします。声を出すことを躊躇する子もいますが、グラウンド内では大声を出さないと叱りますよ。最初はフライ捕球でぶつかることもありますが、次第に工夫するようになります」。失敗すると手話で確認しながら改善点を探す。練習中 は指導者も選手もジェスチャーを大きく、喜怒哀楽をはっきり表に出す。「将来のために『自分を表に出すこと』を、野球を通じて教えています」と続けた。



Close up! ろう学校を指導して12年。「応援されるチーム」がテーマ

藤田監督は千葉県市原市出身、東海大付属市原望洋高校で主将を務め、東海大学では体育学部でコーチングを学んだ。卒業後、特別支援学校の体育教諭としてチバロウ5年、筑波大付属3年、チバロウ4年の計12年野球部を指導。「応援されるチーム作り~挨拶と返事ができる人間の育成~」をモットーとしている。「周りのことを考えない、自分中心の態度をすると本気で怒る。でも優しい先生」と選手たち。取材日の5月23日は39歳の誕生日の前日だったため、大土主将が得意の似顔絵をプレゼント。「LINEのアイコンにします」と満面の笑顔を見せた。