5年ぶり二度目の夏制覇を目指す神戸弘陵。2013年の創部から6度の日本一を誇る女子野球部を率いるのは、同校の男子野球部を二度甲子園へ導いた名将・石原康司監督。男子高校野球と同じレベルを求める石原監督の指導のもと、泥だらけになって白球を追い、真っ黒に日焼けをしながらバットを振る『女子高生』に密着した。
「活躍して天国までお父さんの大好きな野球が届いたらいいな」
昨年の女子野球界は、ウイルスの感染拡大や緊急事態宣言発令に伴い、春の選抜大会や夏の選手権大会などの全国大会が軒並み中止に。全国の3年生が大舞台に立つことすら叶わず引退し、1年生は女子高校野球に馴染むための機会を十分に確保できずにシーズンを終えた。
埼玉県加須市で2年ぶりに開催された今春の選抜大会では、3連覇を狙う神戸弘陵が投打の要であり今大会最注目選手である島野愛友利を軸に準決勝まで勝ち上がるも、履正社に敗退。3年生の信貴友郁や島野が出塁し四番の正代絢子(2年)へ打順を繋いだが、履正社の2年生エース・大向真央を攻略できなかった。
「同じ学年だし苦手意識を持ちたくない。技術をさらに磨き絶対に打ち勝ちたい」。
成長に燃える正代は、スイングの1本1本に集中し練習を重ねていた。鍛え抜かれた下半身と体幹で、力強くブレのないスイングが魅力だ。夏こそは先輩たちと日本一になるまで打線を繋ぎ、四番の役目を全うしたい。石原監督も「本番機会が少なく大きな大会で活躍ができないでいるが、慣れが大事。(正代を)育てるために今は目をつむっている」と、今後の成長に期待を寄せる。
二度の甲子園出場を誇る鈴鹿高校男子硬式野球部のコーチを務めていた父の影響を受け、小学3年のときに野球を始めた。父と一緒に女子プロ野球や高校野球の観戦に行き、甲子園球場も父と訪れた思い出の地だ。毎日父からの熱心な指導を受け二人三脚で高みを目指した。父の他界後も、中学時代には三重県の鈴鹿ブルズ(現:鈴鹿ヤング)の打線の主軸として活躍。3年時に中日本ヤング選抜チームに選出され、第12回倉敷国際少年野球大会で6番ファーストとして全国大会出場を果たした。
「お父さんに甲子園で観てもらいたかったが、自分が活躍して天国までお父さんの大好きな野球が届いたらいいな」。
8月22日に初めて甲子園球場で開催される第25回全国高等学校女子硬式野球選手権大会の決勝戦で、亡き父のためにも、天に轟くほどの活躍をすることを誓った。
(取材・文/喜岡 桜 写真/井上満嘉)