企画

高校野球ブラバン応援研究家に聞く「ブラバン応援の知られざる世界」(後編)

2019.7.30

高校野球には欠かせないブラスバンド応援。「あって当たり前」のように思いがちだが、吹奏楽部が置かれた環境は予想以上に過酷だ。
今回は、高校野球ブラバン応援研究家の梅津有希子さんに、ブラバン応援のリアルと勝利を引き寄せる音楽の力について伺ったインタビューの後編です。


 ――“魔曲”と呼ばれるブラバン応援曲がありますが、実際に魔力を感じることはありますか?

ありますよ! いままで魔曲が流れるなか、驚きの逆転劇をたくさん目撃してきましたから。その度に、音楽の力を感じてきました。なかには魔曲を育てるのが上手な学校もありますよ。

――魔曲を育てる、ですか?

智弁和歌山高校がいい例です。『ジョックロック』『Miracle Shot』『シロクマ』など魔曲と呼ばれる曲を含め、有名な応援曲がいくつもありますが、これらの曲が流れるタイミングが絶妙なんですよ。というのも、応援団の先生が試合展開を読むのが天才的に上手で、一般的な学校より少し早いタイミングで演奏の指示を出すんです。チャンステーマが流れると会場の期待も一気に高まりますから、会場の空気を上手く作っている気がします。

――なるほど。確かに、「試合の流れが変わったかな?」っていうところで、すかさずチャンステーマが流れてきたらアガりますよね。タイミングは超大事です。他に演奏が特徴的な学校はありますか?

近江高校の演奏は、いますごくおもしろいですよ。もともとは一般的な応援曲だったんですが、2年くらい前に吹奏楽部の樋口先生が奮起してリニューアルし、オール洋楽メドレーになったんです。最初は、反発もあったようですが、続けているうちにカッコイイと人気になってきました。なかでも、PITBULLの『Fireball』っていう曲をチャンステーマでやるんですが、ラップがあるんですよ。

「今日の主役はどこですか?」と野球部が呼びかけると、客席が「近江高校〜!」と応える。「チャンスを掴むのはどこですか?」「近江高校〜!」「勝負に勝つのはどこですか?」「近江高校〜!」「優勝するのはどこですか?」「近江高校〜!」って。

昨年のセンバツでこのコール&レスポンスが初披露されたんですが、瞬く間に全国の高校に広がっていきました。ちなみにラップ部分の歌詞は、近江の野球部が考えているんですよ。



――最新の応援曲にはラップがあるんですね! 生で聴いていたら絶対拡散しちゃいます。

そうなんですよ、いまはSNSがあるからおもしろい演奏、いい演奏が、ものすごいスピードで全国に広がります。センバツで初披露された曲を、夏には別の高校が完コピしているなんて当たり前。『アゲアゲホイホイ』なんて幼稚園の運動会まで進出しています(笑)。

Twitter、Youtubeはもちろん、最近はTik Tok発の応援曲も出てきました。その分、曲数も演奏のバリエーションも増えています。ブラバン応援への注目も相まって、他の学校がやってない曲をやろうとする先生も多くなった気がします。

――ブラバン応援もSNSによって変革期を迎えているんですね。ちなみに、さきほど近江高校の応援曲は吹奏楽部の提案でリニューアルしたとのことでしたが、一般的に演奏曲はどうやって決まるんですか?

野球部のリクエストに答えるという場合が多いと思います。吹奏楽部の先生が楽譜を再現できるものであれば、吹奏楽部が知らない曲でも演奏します。

例えば、神戸国際大付属高校は野球部の青木監督がプロレス好きだそうで、オールプロレス曲。小橋建太選手や内藤哲也選手、往年のブルーザー・ブロディ選手のテーマ曲など勇ましい曲がラインナップされています。でも、一度演奏している子に「これなんの曲かわかる?」って聞いてみたら「わかりません」って(笑)。

――わからないですよね(笑)。

龍谷大平安高校が演奏する大事MANブラザーズバンドの『それが大事』は、原田監督からのリクエストと聞きました。

それ以外の応援曲の決め方としては、大阪桐蔭高校の場合は、吹奏楽部が決めたものに野球部からの希望を取り入れているようですし、東海大相模高校は回や打順によって曲が決まっています。天理高校みたいに3曲をずっとループしているような学校もあります。



――最後に、甲子園出場の可能性が高い「今年の注目校」から何校かピックアップするので、応援演奏の見所を教えてください。まずは、智辯学園和歌山高校、智辯学園高校はどうでしょう?

智辯和歌山はさっきお伝えした通り、演奏の指示出しが天下一品で、魔曲を育てるのが上手な学校なので、ぜひ演奏のタイミングもチェックしてみてくださいね。ちなみに、両校のチアと応援団は、オーディションで選ばれた生徒で編成されていて、すごい倍率なんだそうです。

――前橋育英高校はどうでしょう?

前橋育英の特徴は、なんといっても「鉄琴」。ブラバンの前列にずらっと並んだ鉄筋から風鈴のような涼しい音色が聴こえてきます。『Run and Go』というオリジナル応援曲がとてもカッコイイです。

――ではでは、沖縄尚学高校は?
沖縄の学校は遠いので、どの学校が勝ち上がっても市立尼崎高校が友情演奏をするのはご存知ですか?

――え! そうなんですか?

そうなんです。吹奏楽部全員が沖縄から甲子園に来るのは莫大な遠征費がかかりますから友情応援をしています。

沖縄のアルプススタンドはどの地区よりも郷土色豊かなんですよ。出場校の関係者よりも、関西に住む沖縄出身者が多く集まっているからか、応援演奏に合わせてゴーヤを持って踊ったり、お祭りみたいな雰囲気です。指笛もすごい迫力です。

――指笛というと、指を口に入れて鳴らす、沖縄民謡などに出てくる「ピーピー」というアレですね。

本州の子が真似してやったりするけれど、鳴りが全然違いますね。子どもの頃から鳴らし続けてきた年季の入った鳴りです。音も違うし、本数も違う。『ハイサイおじさん』など吹奏楽部の演奏とスタンドの指笛が一体になった演奏は圧巻です。



――最後に、野球部のみんなにメッセージをください!

わたしは高校時代、吹奏楽部で日本一を目指していました。当時は「普門館」(現在は会場が変わっている)という、吹奏楽部にとっての甲子園みたいな聖地があって、「目指せ普門館!」と頑張っていたんです。だから、初めて甲子園に訪れたとき、普門館と同じような空気だなと感じました。

夏は、吹奏楽部のコンクールの時期でもあるので、部員たちは一生懸命練習して全国を目指しています。そんななか、野球応援に駆けつけていることを野球部のみんなにも知ってもらえたら嬉しいです。

今年の夏も、わたしは地方大会から甲子園まで観に行きますので、球児のみなさん頑張ってくださいね!(取材:Timely!編集部)

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