企画

高校野球ブラバン応援研究家に聞く「ブラバン応援の知られざる世界」(前編)

2019.7.29

高校野球には欠かせないブラスバンド応援。「あって当たり前」のように思いがちだが、吹奏楽部が置かれた環境は予想以上に過酷だ。
今回は、高校野球ブラバン応援研究家の梅津有希子さんに、ブラバン応援のリアルと勝利を引き寄せる音楽の力について伺ったインタビューの前編です。


“ブラバン応援”の知られざる世界

照りつける灼熱の太陽に部員も楽器もダウン寸前!


――真夏の甲子園で演奏している吹奏楽部の皆さん。想像しただけで過酷そうですが、実際どのような状況なんですか?
 超過酷ですよ! アルプススタンドは40度近い暑さで、晴れていると直射日光が照りつけます。吹奏楽部は火照りを冷まし、水分や塩分をこまめにとって熱中症対策していますがどうしても体調を崩す生徒はいます。
 楽器にも負担がかかります。繊細な木管楽器は直射日光が当たると割れてしまうことも。修理には何万円もかかります。なので、強豪校だと樹脂でできたクラリネットや、学校にある古い楽器を使っていたりします。

――金管楽器は激アツになるのでは?
 ものすごい熱さになりますよ。去年は、チューバやユーフォニウムなど抱えて演奏しなきゃいけない楽器に包帯を巻いて演奏している学校を見かけました。あとは手袋をはめて演奏しているところもありますね。ただ手袋をするとうまくキーが押さえられなかったりするので、手袋の指先部分だけに穴を開けて押さえやすくしたり、試行錯誤しています。
 ただ、こういう機転の効いた工夫ができるのは常連校。初出場の学校はどこも大変そう。顧問が女性の先生だったりすると野球のルールが分からなくて、ファウルなのにヒットと勘違いして演奏しちゃったり。

――あまり報道されませんが、そんなことが起きてるんですね(笑)。吹奏楽部は、甲子園に出るまでにどんな準備をするんですか?
 地方大会の準々決勝くらいから応援演奏は始まっているので、だいたいの場合その時点で応援曲の練習はできています。学校によっては甲子園のために新しい曲を用意したりするので、その場合は新曲を練習します。あとは、高野連から「応援団の手引」が配られるので、熟読して間違いがないよう準備します。

――「応援団の手引」にはどんなことが書いてあるんですか?
 和太鼓やブブゼラなど、使ってはいけない楽器のリストや次の演奏曲を指示するボードの規定サイズ、タオル回しの自粛など注意事項などが書いてあります。

――そんな決まりがあるんですね。吹奏楽部は試合のたびに甲子園に集まるんですか?
 基本的にはそうですね。関東の学校だったら、夜9時か10時頃に学校を出て、SAなどで時間を潰して、試合開始2時間前キッカリに浜甲子園駐車場に到着します。試合後はどんなに遠くても、吹奏楽部は帰宅。準々決勝くらいになって、次の試合までの日数が短くなってくると、宿泊するところもありますが、春の習志野はトンボ帰りしていましたよ。夜甲子園を出て朝学校に着いて、練習したあと一度帰宅して、その日の夜にまた甲子園に出発という強行スケジュールでした。

――2日連続車中泊!? 体力も必要ですね……。吹奏楽部にとって応援演奏の魅力は?
 音楽で選手を励ましたり後押ししたりできるのは魅力です。実際、チャンステーマでヒットを打ったりするじゃないですか。選手も「応援曲が励みになった」って喜んでくれる子が多いし。コンサートホールで演奏していてもそういうのはわからないから、音楽の力を感じられるのは応援演奏ならではですね。

――印象に残っている応援演奏を教えてください。
 たくさんあるんですが、近いところで言えば、先のセンバツの王者東邦の初戦。大阪桐蔭が、海外遠征で甲子園に来られない東邦の友情応援をしましたよね。大阪桐蔭は東邦の曲を完コピして振り付けも全部覚えたんですが、東邦から「5回以降は大阪桐蔭の応援曲をやって欲しい」とオファーがあったんですよ。そして5回、藤原恭大選手(現ロッテ)の応援曲だった『You are スラッガー』や根尾昂選手(現中日)の応援曲だった『かっせーパワプロ』が流れるとスタンドは大盛り上がり! 選手もそれに応えるようにバカスカ打ってくれました。試合後「打席に立ったら大阪桐蔭の応援曲が聴こえてきて、打ってやろうと闘争心が芽生えた」という選手のコメントを聞いて、音楽の力ってすごいなって改めて感じました。

――東邦のように吹奏楽部の活動と試合がバッティングしてしまうことはあるんですか?
 ありますよ! そんなときはできるだけ音を確保するために、OBや近隣の中学校や高校に助っ人を頼むこともあります。あと、甲子園の時期は、吹奏楽部もコンクール真っ最中なんですよ。なので実はかなり忙しい。大阪桐蔭や習志野など吹奏楽部も強い学校だと、応援もコンクールもどちらも手を抜けない超多忙な日々だと思います。

――そんな時期に吹奏楽部は野球応援に駆けつけてくれているんですね。ありがたい……。
 でも、吹奏楽部にとってもすごくいい刺激なんですよ。夏の時期はコンクールの練習しかしない学校が多いのですが、そんななか野球応援のポップで楽しく短い曲を何曲も演奏するといい気分転換になります。それに、同級生が全力で頑張る姿を近くで見て、音楽の力も感じられる。野球部が勝っても負けても心に刺さるものがあります。コンクールへのモチベーションもすごく上がると思います。


編集者・ライター 高校野球ブラバン応援研究家 梅津有希子
北海道出身。中高を吹奏楽の強豪校で過ごし、ファゴットを担当。札幌白石高校時代に「吹奏楽部の甲子園」こと普門館で開催された全日本吹奏楽コンクールに出場し、3年間連続金賞を受賞。著書に『ブラバン甲子園大研究』(文藝春秋)など多数。甲子園の時期は、ツイッターのハッシュタグ「#ブラバン甲子園」で、アルプススタンドのブラバン応援について解説をツイートしている。
Twitter @y_umetsu

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