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【アメリカ視点で見る高校野球】U18ワールドカップ 日本対アメリカ(1次リーグ)

2015.9.3
 この大会共に初戦となったブラジル、チェコ戦では両チーム二桁得点を取って危なげなく勝利をあげた。日本は2試合目にして前回大会優勝チームのアメリカとの対決となり、本大会注目の一戦となった。

 アメリカ代表の先発投手はすでに野球の名門ヴァンダービルト大学の進学が内定しているブラクストン・ギャレット。メジャー球団から注目を集めている投手だが、昨年の秋にはフローレンス高校のコーチに決まった父親と共に転校を決めて、高校3年目のシーズンを送った。MAX PREPS(高校スポーツ専用サイト)によると、投手としては66回2/3を投げて、7勝1敗、防御率0.75、141奪三振、11与四球という成績をおさめ、打者としても36試合で打率.371、1HR、30打点、18盗塁だった。このU-18の大会は「DH」制であるため、世界を相手に戦う高校球児の二刀流が見られないのは残念だ。

 日本は初回、そのギャレット相手にいきなりオコエが先頭打者ヒットで出塁。だが篠原がバントを決められずに2ストライクと追い込まれ、三振に倒れてしまう。続く3番の平沢も内野フライで終わり、ランナーが進めぬまま4番の清宮を迎えた。しかし、キャッチャーがファンブルしている際に進塁を試みたオコエがセカンドでアウトとなり、先頭が出塁したがチャンスには繋げることはできなかった。

 先発投手の立ち上がりの組み立ては対照的だった。アメリカ代表のギャレットが直球先行だったのに比べ、日本代表の佐藤は 初回から変化球を積極的に織り交ぜていた。

 2回は、両投手が三者三振でイニングを終えた。ギャレットは6番伊藤に対して変化球で三振を取り、最後はガッツポーズを見せる。そして変化球中心に組み立て始めた3回には走者を二塁に置いた状態でオコエを迎えるが、ここでも変化球で三振を奪い、ガッツポーズで感情を爆発させた。一方、佐藤はイニングを三振で終えても、帽子を深くし、淡々とした表情でベンチへ帰っていく。

 3回には米・先頭のモニアクがこの試合初めての長打となるツーベースを放つ。ベースに辿り着くと、ユニフォームの「USA」と国名が書かれた部分をベンチに向けた。自国に対するプライドをグラウンド上でも要所でアメリカ代表は見せていた。

 試合内容については、 得点に繋がらなかったものの、日本は初回から細かい野球徹底することによって、試合の中盤では走者が出た場面でアメリカ代表の先発投手ギャレットに“何かを仕掛けてくるかもしれない”という意識を植え付けたように見えた。走者が出ると、牽制する場面が多くなり、時折マウンドを気にする仕草を見せるなど、打者だけに集中出来ていない様子がそれを顕著に表している。

 投手としての能力は、高いリリースポイントから繰り出す直球とカーブ・スライダーを誇るギャレット。実力は彼の方が一枚上手に見えたが、試合が進むにつれてマウンドでの冷静さ、動じない強さを持っていたのは日本代表の佐藤だった。雨が強くなっても何ら変わらず、危なげない投球を続けた。結果的に、前回王者のアメリカに対して5安打完封で勝利を呼び込んだ。

 感情を表に出して戦うアメリカ代表とは対照的に、内に秘めた闘志と共に個の能力をうまく出しきり、勝利を掴んだ日本。甲子園大会を戦い抜き、また大会中に大きく成長を遂げた「個」の集まりがチームとなり、2次リーグで世界のトップレベルを相手にどういった纏まりを見せていくか注目したい。


<著者プロフィール>
新川 諒(しんかわ りょう)
幼少時代を米国西海岸で10年過ごし、日本の中高を経て、大学から単身で渡米。オハイオ州クリーブランド付近にあるBaldwin-Wallace Universityでスポーツマネージメントを専攻。大学在学中からメジャーリーグ球団でのインターンを経験し、その後日本人選手通訳も担当。4球団で合計7年間、メジャーリーグの世界に身を置く。2015年は拠点を日本に移し、フリーランスで翻訳家、フリーライターとして活動中。


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