企画

【甲子園で戦う男たち】高校球児を追いかけるスポーツライターのお仕事

2018.8.27

高校球児をチェックしているのは指導者や応援してくれる地域の皆さん、プロのスカウトだけではありません。ここで紹介するのは選手たちの特徴を文章として発信するスポーツライター。日々さまざまな選手を追いかける西尾さんにお話を伺いました。


ーースポーツライターとして仕事をしようと思ったきっかけを教えてください
「高校生のときだったのですが、OBの先輩が他の高校で監督をやっていました。その方の話を聞いた時に『野球を日々の仕事にすることは難しいけれど、自分は夏休みの一ヶ月は野球だけでご飯を食べている』と言っていました。それがすごく心に残っていて、プロになれなくても野球に関わる仕事はできるのだなと。その後、監督なども視野に入れて教員免許を取得したり、大学院に進学してスポーツ科学の研究をしました。野球の技術を突き詰める研究職にとも思ったのですが…あまりにも現場とかけ離れているなと。当時は技術をひたすら調べて書く野球のライターは少なかったので、経験や学んだことを活かし、自分なりの切り口で書いてみようというのが始まりでした」

ーー年間何試合くらいに足を運びますか?またどのようなことを中心に見ていますか?
「高校野球だけでなく、大学野球や社会人野球、中学野球も含めてですが、年間で300試合くらいは見ています。もう日本で行っていない県は鳥取だけになったほどです(笑)。球場では試合全体というよりもひたすら選手を追いかけていますね。チェックしているのはまずはシンプルなところで、ピッチャーであれば球が速い、バッターだったらスイングが速いというところです。あとは形で、体が開かないこと、反動やひねりなどの無駄な動きがないというのはピッチャー、バッター問わずに共通して基準だったりしますね。その後注目する選手はもっと細かいところをチェックしていきます」

ーー取材時の持ち物と流れを教えてください
「まず持ち物ですがストップウォッチ、スピードガン、ノート、そしてその大会の選手名鑑です。スコアブックだと書ききれないので、身長体重、成績などは全選手分ノートにメモをとり、そのなかで気になった選手をピックアップして最後に寸評を書いています。打ってからの塁間のタイム、ピッチャーのクイック、タイミングがあえば盗塁や牽制も測り、キャッチャーのスローイングなども計測していますね。両チームのピッチャーの球数分ストップウォッッチを押しているので、1年で5個くらいはストップウォッチを壊しています(笑)。基本的にはひたすら見て、測って、メモをしてという動きです。球児本人に取材するタイミングがあった際は、試合の感想や今後の目標というよりも技術論を中心に聞いています。また甲子園になると測定をするというよりも大舞台でどこまでできるかを見て、成績などをひたすら書くということの繰り返しです。あとは甲子園で原稿を書く気持ちよさは何度経験しても素晴らしい時間で、他では味わえません」


ーー甲子園と地方大会の違いはありますか?
「正直選手のことを見る、調べるという意味では地方大会でほぼ完了しています。ただ、甲子園というのは本当に凄いところで、いきなり上手くなるというか、何かがきっかけで突然見違えるような選手になることもあるんです。大阪桐蔭高校の西谷監督も甲子園での成長は足し算ではなく、掛け算と言っていました。大化けすることも稀ではありません。その違いはありますし、急激な成長を見逃さないために甲子園には必ず取材に行っています」

ーー西尾さんをここまで駆り立てる理由はどのようなことですか?
「野球が好きということはもちろんですが、球児たちに自分の才能に気づいてもらい、もっと上を目指してもらいたいという気持ちもあります。数年前になりますが、自分が取り上げた選手の親から編集部に問い合わせがあり、掲載されているのは本当に自分の息子ですか?と(笑)。この子は自分をそこまでの選手じゃないと思い高校で野球を辞めようと考えていたみたいなのですが、その記事を見て大学まで続けてくれたそうなんです。自分の記事が野球を続けるきっかけになったことは素直に嬉しかったですね。あとは仕事のプライドでもありますが、ドラフトで指名されてどんなタイプの選手かと聞かれたときに、全選手を完璧に答えられるようにしたいという気持ちもあります。そしてプロになる選手を自らすべてチェックするというのはなかなかできないこと。だからこそ意味があると思っています」



(取材・写真:藤倉大輔)

プロフィール

西尾典文
スポーツライター。大学まで選手としてプレーした後、筑波大学大学院にて動作解析の研究をおこない、在学中より技術解析などをテーマに執筆。年間300試合以上を取材し、Timely!をはじめ多くの野球専門誌にて活躍している。

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