大分商業は甲子園出場は選手権15回、センバツ5回。これは大分県勢として最多出場回数であり、通算5度のベスト8進出を誇る。また、1年目で最多勝、最優秀防御率、新人王のタイトルを獲得した荒巻淳(毎日―阪急)をはじめ、現巨人のスカウト部長を務める岡崎郁ら多数のプロ野球選手を輩出するなど、津久見と並んでもっとも輝かしい功績を大分県の高校野球界に残してきた公立高校の雄。
2013年の夏には16年ぶりに聖地甲子園にカムバックした。その後は甲子園には出場できていないものの、2015年夏の準優勝などすっかり県の上位に定着。そのうえ、公立校でありながら毎年のようにプロ野球に出身選手を送り込んでいる。2014年の笠谷俊介、2015年の川瀬晃がソフトバンクに入団。さらに昨年のドラフトでは源田壮亮(大分商業→愛知学院大→トヨタ自動車)が3位で西武入りし、今季は開幕スタメンに名を連ねて以降、西武の正遊撃手としての地位を手にしようとしている。
果たしてどれほどの練習をこなしていけば、強豪私学に伍するだけの力を備えることができるのだろう。いったい彼らはどのような厳しい練習を行ない、日々を過ごしているのだろうか。その秘密を探るべく潜入した大分商業には、予想外の光景が広がっていたのだった。
練習にお邪魔した4月18日は平日の火曜日。しかし、グラウンドに選手たちの姿はなかった。道具を取りに走ってきた部員のひとりに聞くと「毎週火曜日は完全トレーニングの日なんです」と言うのである。
彼に連れられて行った先は、校内のトレーニング場だった。練習着に身を包んだ選手たちが、大声を発しながらトレーニングマシンで体作りに励んでいる。入学したての1年生部員は武道場を借りて自体重トレに取り組んでいるという。
マシンは二の腕、背筋、胸筋を鍛える定番のベンチプレス、脊柱起立筋、ハムストリングスなどの筋力を強化するローマンチェアだけでなく、バーを引っ張って下げながら広背筋を鍛えるラットプルダウン、上腕三頭筋と肩まわりを強化するショルダープレス、二の腕強化のアームカール、大腿四頭筋、大臀筋を鍛えるレッグプレス、レッグエクステンションなど様々だ。
15キロのダンベルを使って打撃のインパクトまで振り下ろして止めるスロースイング、バーベルのプレートのみを使用したリフトアップなどに取り組む選手たちの姿もあった。
新入生が行なっている背筋、下半身全般の強化と瞬発力を養うためのスクワットジャンプや手押し車など、器具を使わない体幹トレーニングを含めれば、メニューは30近くにのぼるという。
トレーニングメニューとしては、他校と比べて特別に毛色が違うというわけではない。注目したのは、シーズンが本格化した4月になってもなお、冬場のようなトレーニングに1日を費やしているという点だ。2013年に大分商業を甲子園出場に導いたチームを率いる渡邊正雄監督は次のように語った。
「はたして大分県のチームは、他県に比べていったい何が足りないのか?また、公立でも私学に勝っていくには何が必要なのか?それはどう考えても“強い体”なんです。筋力の増加でスピードアップを果たせるということを聞いたので、そこにすべてを賭けてみようと思ったんです」
秋の九州大会で敗退した直後の昨年11月、渡邊監督は専属トレーナーに頼んでメニューを作ってもらい、冬は完全週2日でウエートに取り組んできた。トレーナーへリクエストしたのは肩甲骨まわりと股関節まわり、そして太ももの強化だった。先述のショルダープレスやレッグプレスといったマシントレーニングは、その最たる例である。
トレーニングを週2日制に切り替えるというのは、相当の覚悟がないとできないことだ。当然野球の動きは減ってきたが、トレーニングがいかに重要かということは全国で勝っている強豪校の監督からも常々レクチャーされていたことだった。
「どの監督さんも『まずは体作りをやらないと。小手先ばかりを見ていては何も変わらないよ』と口を揃えて言うんですよ。九州国際大付の楠城徹監督、東海大相模の門馬敬治監督もそう仰っていたし、鍛治舍巧監督の秀岳館も、徹底したトレーニングで結果を残していらっしゃる。勝っているチームは基本的にトレーニングに時間とお金をかけていますよね。ましてや、強豪私学ならなおのこと。私たち公立校は、まず“強くなるための幹”を作っていかないと。土台が追いつかないとまず勝負になりませんから。そこをトレーニングに見出したというわけです」(取材・写真 加来慶祐)