あるチームで試合後に投手の指導を依頼された時のことです。そのチームは試合に負けた後で、不甲斐ない負け方をした投手陣に対して監督から指導してほしいと依頼されました。初めて観戦したチームだったので、「まずは会話」と思い、先発した投手に「残念だったね。今日の試合はなぜ負けてしまったと思う?」と聞いてみました。するとその投手は「今日は調子が悪かった。調子が良ければあんなチームに負けたりしない。」と答えました。
私は彼にこう話しました。
「私はキミよりも何倍もたくさんの試合に登板してきたので、私の話も参考にして欲しい。キミの良い点は『こんな筈ではない』という気持ちを持っていること。物事が上達する過程で『自分に期待する』ということはとても大事な要素だ。逆によく考えて欲しいのは負けた原因を『調子が悪かった』ということに求めていること。そもそも私の経験では、『今日は調子がいい』と思うのは10試合中2試合くらい。5試合は『普通』、3試合は『調子が悪い』と感じる。調子が良い時しか勝てないのであれば、キミは勝率2割の投手になってしまう。調子が良い時に勝つのは当たり前。良い投手は調子が悪い時にも粘って勝ちを拾う。そうすることで勝率8〜9割という投手になるんだよ。」
一昨年、プロ野球では田中将大投手が24勝0敗という成績を収め、史上初の「無敗の20勝投手」となりました。しかし実際に見ていると決して状態の良い日ばかりではありませんでした。でも無敗でシーズンを終えられたのは、調子の悪い日も我慢強く粘って投げていたからこそ、味方の援護を貰えたのだと思います。
「調子の良し悪し」「グラウンドコンディション」など、自分でコントロールできない要素に原因を求めていると、結果に対して説明はつくものの、結果を好転させることはできません。結果は「転がり込んでくるもの」ではなく「狙って出しにいくもの」だと思います。「外的要因に依存せず、主体的に良い結果を狙える選手」を育てたいです。
※Facebookページ「少年野球指導者のひとり言」より転載。
著者:廣川 寿(ひろかわ ひさし)
愛媛県出身。松山北高校時代に投手として選抜高校野球(春の甲子園)に出場。甲南大学時代は投手として阪神大学野球連盟の数々の記録を塗り替える。社会人野球まで投手として活躍。自身の息子が少年野球チームに入部したことをきっかけに学童野球のコーチとなる。現在は上場企業の管理職として働く傍ら、横浜港北ボーイズのコーチとして「神奈川NO.1投手の育成」を目標に掲げ、中学生の指導に情熱を注ぐ。