企画

【野球の観方を変える】現代野球に必要なピッチングを考える 〜後編〜

2014.10.27
「縦振り理論」をベースに、少年野球から高校野球まで幅広くチームサポート活動を行う榊原貴之が、野球の新たな観方を提案する。


バッティングスタイルの変化により多投され始める、縦系変化球

 さて、前回はスライダーの台頭によるバッティングスタイルの変化を紹介し、「身体に近いところでインパクトする」「引きつけて腰を回す」というような考え方が強く世の中に普及することになりました。確かにボール球のスライダーを見極めたり、甘く入ってきたスライダーを打ち返すには必要なテクニックです。技術的には間違いのないことなのですが、実はこれが大きな誤解を招くことにもなりました。体重移動が少ない選手を多く生み出してしまったのです。これの何が問題なのかというと、インパクトの幅が小さくなり、変化球の対応が難しくなりました。スライダーへ対応するために広まった考え方なのに何とも皮肉な話です。しかも、これに輪をかけるように食事を大量に摂り、筋力トレーニングで身体を大きくするというアプローチも加わりました。結局は体の大きい選手が詰まりながら、金属バットでバッティングするというのが良いという風潮にもつながってしまいました。これが2000年から2010年くらいの流れです。

 このようなバッティングスタイルへの対策として、投手は縦系変化球を多用するようになりました。打者のインパクトの幅が狭くなっていますから、タイミングをズラして打ち取るようなピッチングスタイルに移行してきたのです。要はスライダーが流行る前のシンプルなスタイルに戻ったということになりますね。その筆頭が縦カーブですね。緩いカーブはカウントをつくるのに使えますし、速いカーブはウィニングショットにもなります。あとはチェンジアップ。ストレートと同じ腕の振りでボールが来ないわけですから、カーブ同様にいろいろな使い方ができます。


カウントを作るために、縦系変化球を織り交ぜる

 では、縦系変化球の使い勝手の良さはどういうところなのでしょう。まず一番は『コースを狙わなくて良いこと』です。むしろ真ん中付近から曲げなければいけません。打者は真ん中付近にきた球は振っていくという本能があります。だからこそ、縦系変化球は内角や外角の厳しいコースは狙う必要はありません。これは投手の心理もかなり楽になりますね。あとは配球的に考えても、緩い縦系変化球では初球の入りとしては使うこともできます。スライダーを中心とした配球となると外角中心となり、どうしても球数が多くなります。しかし、初球から縦系変化球を使うことによって一球で打ち取る可能性も増えますし、ファールでカウントをつくることもできます。もちろん、球速を上げることで追い込んでからのウィニングショットにもなりますね。NPBやMLBで今流行りのスプリットフィンガードファーストボールも縦系変化球の一つです。高校生で操る投手はまだ少ないですが、これが主流になるのも時間の問題かもしれませんね。

 現代野球としては投手の最高球速は頭打ちになってきています。常時150キロ台を連発するような投手が出てくる時代がすぐにやってくるとは思えません。打者の眼もスピードガンで表示される速さには慣れてきています。そうなると、多彩な変化球を駆使しながら打者を打ち取ったり、体感的にストレートを速くみせるような投球術を持っている投手がゲームをつくっていく力を持つことになりますね。


<著者プロフィール>

榊原貴之
昭和49年生まれ、神奈川県出身。”縦振り”という考え方を基に走攻守の技術を始めとして、チーム創りに関するアドバイスを全国の野球チームに行う。小中学生を対象とした野球教室や指導者講習会などの講師も担当。Facebook、Twitterにて野球観や人生観の“気づき”を毎日綴っています。

Twitter : @taka19740921
Facebook: facebook.com/takayuki.sakakibara

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