学校・チーム

【山梨学院大学附属高校】個人の長所を伸ばし 力負けしないチームを作る

2016.4.5

山梨学院大学附属高校


体力がなければ全国では勝てない
体作り=トレーニング+食事

 吉田監督が本格的に体作りに着手したのは、清峰時代のこと。2006年センバツ決勝で横浜に0対21の大敗を喫してからだ。
 「あの代は技術的に高いチームでした。ただ、決勝で感じたのは体力の差。決勝では、足が動いていない選手がいました」
 地元の支援者からは「田舎の子が体力で負けるのはおかしいだろう」という叱咤激励もあった。
「体力がなければ連戦では勝てません。特に夏に勝ち抜くことを考えると、体力は絶対条件になります」
 清峰時代に行っていたのが、5キロの丸太を胸の前でかかえ、300メートルダッシュ60本など、過酷なトレーニングだ。横浜に負けてからはさらに過酷になるとともに、食事にも力を入れた。
「トレーニングのあと30分以内に、必ずたんぱく質とカルシウムを入れる。これによって筋肉が作られていくのです」
 この考えは、山梨学院大附属に移ってからも変わっていない。トレーニングのあとはプロテインでたんぱく質を補給。さらに、各自が持参したチーズなどでカルシウムを摂っている。
 トレーニングと食事は、体を作るうえでの両輪。どちらかひとつだけでは、理想の体を作ることはできない。

なぜトレーニングをやるのか?
パフォーマンスを高めるため!

「大事なことは何のためにトレーニングをするのか、ということです。それは、選手のパフォーマンス能力を高めるため。そこを常に頭に入れています」
 これが、吉田洸二監督が考えるトレーニングの根本だ。
「得てして、指導者は自己満足に陥りやすいんです。『これだけトレーニングをやったから』という気持ちの面にいきやすい。でも、パフォーマンス向上につながっていなければ、どうなのかなと思うのです」
 取材をした今冬のテーマは「長所を伸ばす!」。個々の特徴を最大限に生かす取り組みをしている。たとえば、食事でいえば、「身長−100<体重」が理想型だが、細身で足が速い選手は、体重が増えることでスピードが鈍る恐れもある。
「食事の量は選手によって、違います。茶碗3杯の選手もいれば、茶碗1杯の選手もいる。体重を増やしてほしい場合は、さらにお餅を5個食べることもあります」
 ポジションによっても違いがあり、ピッチャーは重たい器具を持っての筋肥大を狙ったトレーニングよりも、軽い器具で速い動作を行い、瞬発系を鍛えるのが主。可能な限り、それぞれの特徴を伸ばす方向でメニューを組んでいる。

ケガに細心の注意を払う 慢性疲労を取り除く休養日
「全くケガをしないトレーニングは、トレーニングじゃないと思っています」
 ドキリとする発言が飛び出した。もちろん、だからといって、ケガをさせていいというわけではない。
「ケガをさせないギリギリのところまで、いかにやらせきるか。それは山梨に来てから、より深く考えるようになりました」
 清峰のときは丸太を持ってのダッシュやスクワットなど、全国的にもトップクラスのハードなトレーニングを課していた。これによって、全国で戦える体が作られたのは事実だが、一方では腰などを痛める選手もいたのだ。
「正直、今の山梨学院で清峰と同じことをしたら、ケガ人が続出してしまいます。指導者として、ケガだけはさせないようにしなければなりません」
 そのために取り入れているのが、完全休養日だ。週1日、月曜日が休みとなる。
「ケガにつながりやすいのが慢性疲労です。疲れが抜け切れない中でトレーニングをするので、どこかを痛めてしまう。それに、トレーニングというものは人間の精神状態に影響しやすいもの。精神状態がよくないと、自分自身を追い込めなくなる。心が参っていたら、最後までやりきることができません」
 山梨学院大附属はグラウンドの横に寮が完備されている。1人1部屋ではないため、チームメイトと同じ空間で過ごす。
「清峰は自宅からの通いだったので、一人で寝ることができる。でも、ここではそうはいかない。知らず知らずのうちに、精神的なストレスもかかるものです」
 そういう意味でも、ゆっくり過ごせる日を作る。指導者も月曜日は休み。リフレッシュした状態で、火曜日からの練習に臨む。
「あとは、指導者が選手を見る目が大事。日頃、歩いている姿を見ただけで『どこか、足が痛いのかな?』とわかるようにならなければいけない。選手は痛くても『大丈夫です!』と言う場合がありますから」
 選手の申告ではなく、指導者の目で練習ができるかどうかを判断する。これもまたケガ人を減らすためには欠かせないことである。

アップ=トレーニングの考え方 シーズン通して1時間のアップ
 具体的にどのようなトレーニングをしているのか紹介したい。
 まず、特徴的なのが毎日1時間強かけて行うアップだ。外野をめいっぱい使ったランニングから始まり、肩甲骨や股関節をほぐす運動、さらには室内練習場で腕立て・腹筋・背筋に取り組み体幹強化。再び外野に戻り、ダッシュ系を行っていた。


 体幹トレーニングの数をチェックしてみると、腕立て90回、腹筋80回、背筋150回。毎日積み重ねることによって、夏に勝負できる体ができあがっていく。
「アップというよりは、トレーニングですね。シーズンに入ってからも1時間近くはみっちりやります。このアップをしっかりできなければ、どれだけ野球の力があっても公式戦では使いません。こういった取り組みに関しては、厳しく接しています」
 誰が高い意識で取り組んでいるかは、選手同士がよくわかっているもの。「あいつはやっている」「あいつはさぼっている」と。それなのに、真面目にやっていない選手が試合で使われると……、「何で?」となりがちだ。そこから連携が乱れていくこともある。
「ほかの高校と比べて、メニューの内容にはそれほどまでに違いはないと思います。大事なのは、しっかりとやりきれるかです」
 ダッシュであれば、ゴールラインまで全力で走っているか。体幹トレーニングであれば、最後の1回まで腕立て伏せをやっているか。このわずかな差が、最終的に勝敗につながっていくこともあるわけだ。

ウエイト場でのトレーニング 上半身と下半身を分けて鍛える
 アップのあとは3班に分かれて行動し、30分でローテーション。このうち1班はウエイトトレーニング場で、器具を使ったトレーニングを行う。
「主には火曜と木曜が上半身、水曜と金曜が下半身を鍛える日で、曜日ごとに分けています。これはシーズンに入ってからも変わらないことですが、オフシーズンのほうがメニューはハード。冬は筋肥大、シーズンに入ってからは筋力維持がテーマになります」
 ケガを抱えている選手は、加圧トレーニングに取り組む。加圧ベルトを足や腕の付け根に巻き、一時的に血液量を制限した状態を作る。体内の酸素が薄い状態となるわけだ。結果、脳がハードなトレーニングをしていると錯覚して、通常のトレーニングよりも多くの成長ホルモンが分泌するという理屈である。 そして、トレーニングのあとにはもちろんたんぱく質とカルシウムを補給。栄養を摂らなければ、体は変わっていかない。

●取材を終えて
 アップで目に飛び込んできたのが色鮮やかなランニングシューズだった。野球部でよく見られる白のアップシューズは一人もいない。
「ランニングシューズを履くようにと伝えています。なるべくクッション性があるもの。昨年は、ハードなトレーニングをしていないのに、疲労骨折する選手が多かったんです。靴にも原因があったのかなと感じています」
 やはり、ケガには細心の注意を払う。
 ウエイトトレーニング場では、ピッチャー陣のトレーニングを取材。必死の形相で戦う選手たち。声にならないうめき声が聞こえてきた。わずか10分ほどでウエイトを630回。
「苦しいんだよ、きついんだよ! 楽なトレーニングなんてないんだよ!」
 菊池コーチの言葉がすべてを物語っていた。

PLAYER INTERVIEW
キャプテン
加々美啓太
1997年8月3日生まれ、山梨県富士河口湖町出身。2年春はキャッチャーとして春の関東大会優勝に貢献。現在は、キャプテン・4番・ファーストでチームを引っ張る。

――アップが1時間強。長い時間かけていますが、どんな意識で取り組んでいますか。
はじめは、ただ体を温めるだけだと思っていたんですが、アップ=トレーニングと考えるようになってから、一つ一つの動きを意識するようになりました。
――特に動きの面で意識していることはありますか。
自分はコーチから『かかと重心で動いているから、つま先重心に変えたほうがいい』と言われています。そのためには、アップのときから足の指をしっかりと使って動くこと。漠然とやるのではなく、自分の体と向き合うようにしています。
――練習を見ていると、チーム全体でアップに真剣に取り組む雰囲気が伝わってきました。新チーム当初からできたことなのですか?
いえ、新チームが始まったときはアップや体幹をさぼっている選手もいました。そこで、菊池コーチに『体の動きを考えてやりなさい』と怒られたりして、一人一人が考えるようになっています。
――加々美くん自身はどう?
キャプテンになったことで、周りから見られていることを意識するようになりました。
――アップ、トレーニングによって体の変化は感じますか。
感じます。中学時代はホームランを打てるバッターじゃなかったんですけど、今は4番を打たせてもらっています。飛距離が出るようになっている。トレーニングがきついときもあるんですけど、しっかりと取り組んでいきたいと思います。



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