大学院で学んだ心理学
森大監督のスタイルとは、そのキャリアに答えがある。浦和学院卒業後は早稲田大、三菱自動車倉敷オーシャンズで投手としてプレー。25歳で引退後は母校のコーチを務める傍ら、筑波大、早稲田大の大学院で指導者としての基礎、理論を学んだ。とくに早稲田大大学院で心理学を学んだことが、森監督に大きな影響をもたらしている。
「実習として心療内科で白衣を着て、鬱病に苦しむ患者さんの診療にも携わっていました。今は自己肯定感の低い人が多くて、鬱病や適応障害に苦しむ人が増えています。自己肯定感の低い高校生に『てめぇ、何やってんだよ!』と怒鳴ってしまったら、そのまましゅんとしょげてしまいます。少子化の影響で親から過大な愛情を受けて育ち、怒られ慣れていない生徒も目立ちます。子どものアイデンティティが変わってきているのですから、指導のあり方も変えていかなければならないと感じます」
冒頭の大内への声掛けは、まさに心理カウンセラーとしての顔も持つ森監督ならではの手法だったのだ。
心理学を学んだ恩恵は他にもある。
森監督は「ヤフコメ(Yahoo!ニュースのコメント欄)を見るのが好きなんです」と衝撃のカミングアウトをした。
「批判の声は逆に勉強になりますから。僕が監督に就いた当初なんか、『世襲、世襲……』のオンパレードで、自分でも『まさにそうだよな』と思っていましたから」
インターネット上での批判を受け、精神を病むケースが社会問題化しつつある。それでも、森監督は「批判を恐れてはいけない」と考えている。
「批判はあるもの。すべて肯定してもらえるわけではありません。選手にもよく言うんです。人は理想と現実にギャップを感じてダメージを負うわけですが、批判を受ける現実の自分も『これが自分なんだ』と受け入れることが大切です。批判を受け入れないと、今の時代では通用しませんから」