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高校野球に見えたポジティブな変化、そしてこれから(後編)

2021.9.24

『甲子園という病』で高校野球、甲子園の在り方に強烈な問題提議を投げかけたジャーナリストの氏原英明さん。この夏に発売された『甲子園は通過点です』では球数制限、丸坊主の廃止、科学的なトレーニングの導入など、高校野球で新たな取り組みを始めた当事者たちの姿を追っています。今回はそんな氏原さんに、面白い野球本を紹介する架空の書店『野球書店』でこの本を「8月の月間MVP」に推している、同店の店主によるインタビュー後編です。


ウイニングカルチャー 

店主 第2章の明秀日立高校金沢監督の「『甲子園』に取り憑かれた鬼軍曹の改心」が凄く印象深かったです。でも意地悪な見方をすると休養日を設けたり、選手の自主性を重んじた結果、試合に勝つという点においては遠回りになったりしないのかなとも思ってしまいました。

氏原 結果が出るまで多少時間はかかると思います。でも僕は時間がかかってもいいと思うし、結果が出なくても自分たちで考えながらやった子達の将来まで見てあげるべきだと思います。「甲子園に出たかどうか」を答えにするのではなくて、選手達のその先も見あげてくださいって僕は思いますね。

店主 金沢監督は単に甲子園に出ることだけを目指すのではなくて、どうやって勝つのか? を求めているように思えて、それは第6章に出てくる「ウイニングカルチャー」という言葉にも通ずるものがあるなぁと思いました。

氏原 試合に勝ったときに負けた相手から「まいりました!」と思われるチームになるのか「なんだよあいつら」と思われるチームになるのか。試合後に整列したときに握手をしたいと思ってもらえるのか、もらえないのか。思ってもらえないチームも中にはあるわけですよ。

店主 サイン盗みとかやっているチームですね。

氏原 だからそういうことがないように、それが「ウイニングカルチャー」ですよね。
 
 

中谷監督に感じた智弁和歌山の変化

店主 智弁和歌山の章で強烈に頭の中に響いた中谷監督の言葉がありました。
「投手1人のチームを作って、そこが壊れたら終わりって、組織のあり方を考えたら普通におかしい(中略)企業もそうですよね。1人に託して大きなプロジェクトが潰れてしまう。そういうことはあってはいけないじゃないですか」という部分なんですけど、ぐうの音も出ない正論というか、この言葉を否定できる監督って全国にいるのかなって。しかもそれがきれい事ではなくて、言っているとおりのことをやって甲子園で優勝してしまったじゃないですか。もう説得力がありすぎますよね。

氏原 この本は、自分でいうのも何ですけど、確かに紹介している広島の武田高校も新潟明訓高校も素晴らしいんですけど、明秀日立の金沢監督と智弁和歌山高校が変化していることに意義があると思っています。金沢監督はめちゃめちゃ厳しくて昔は超甲子園至上主義だったんですけど、その金沢監督が変わったことにまず意義があって、それにプラスして智弁和歌山が変わったことなんです。

店主 確かに中谷監督になってから随分変わった気がしますね。

氏原 智弁和歌山って金属バットに頼ったバッティングで、確かに甲子園では勝ちますけどOBが大学、社会人、プロでほとんど活躍しないと言われていました。そんな「甲子園では勝つけど......」と言われていた学校が(中谷監督になって)国体で木製バットを使ったんです。それを知った瞬間に「これは何かが起きているぞ!」と思ったわけなんです。

店主 当時話題になっていましたね。

氏原 そうやって、中谷監督になってプロに行った林(広島)、黒川(楽天)は入団2、3年目でもうプロで活躍しています。それを考えたらすごいですよ、智弁和歌山が変わったということは。
でも中谷監督は高嶋前監督のやり方を否定しているわけではないんです。とても尊敬していて「目標は高嶋監督です」と言っていて、自分が喋ることで高嶋さんの真逆のことをやっていると捉えられることもあるので余計なことは一切喋らない方です。だから僕が勝手に代弁をしていますけど。


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