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高校野球に見えたポジティブな変化、そしてこれから(前編)

2021.9.15

『甲子園という病』で高校野球、甲子園の在り方に強烈な問題提議を投げかけたジャーナリストの氏原英明さん。この夏に発売された『甲子園は通過点です』では球数制限、丸坊主の廃止、科学的なトレーニングの導入など、高校野球で新たな取り組みを始めた当事者たちの姿を追っています。今回はそんな氏原さんに、面白い野球本を紹介する架空の書店『野球書店』でこの本を「8月の月間MVP」に推している、同店の店主にインタビューをして頂きました。


色んなものが見えてきた3年間


野球書店店主(以下、店主) 先月『甲子園は通過点です』が発売されましたが、前作『甲子園という病』が出たのが2018年の夏になりますね。その間に球数制限が導入されたり、結果的に雨が多くて過密日程になりましたけど休養日も多く導入されることにもなりました。僅か3年ですが高校野球も色々と変わろうとしています。この3年間を氏原さんはどのように捉えていますか?

氏原 もともと変わりつつあったということがあると思います。物事には何でも良い面も悪い面もあると思いますけど、これまでは高校野球は何も悪くない、全て良いものだと思っているところがあったと思うのですが、そこに釘を刺したというか、もうちょっと目を覚ましましょう皆さん、と問いかけたのが『甲子園の病』という本だったと思うんです。
そこに疑問を持っていた人も僕1人ではなくて、「やっぱり自分たちの考えは間違っていなかった」という水面下にいた人達が出てきて、その動きが目立ってきたなというだけであって、急激に変わったということではないと思っています。

店主 なるほど。

氏原 僕自身もこの3年間、ちょっとでもいいなと思ったことや取り組みなどを積極的に取り上げようとしてきました。例えば試合で偶然ピッチャーがいなくなって仕方なく複数ピッチャーを使って勝ったとしても、「複数投手を使って勝ったのだから素晴らしいじゃないか!」と、なるべく(野球界を)良い方向に持っていこうと意識していました。良い発見を意識していたからこそ、色んなものが見えてきたというのもありますね。

店主 色んなものが見えてきたからこそ、この本では第7章にサッカー指導者の幸野健一さんも出てくるわけですね。

氏原 実は幸野さんはこの本のキーマンなんです。『甲子園という病』を出した年のたしか12月だったと思いますが、サッカージャーナリストの小沢一郎さんと2人でトークショーをやったんです。『サッカー視点で甲子園を見る』みたいなテーマだったんですけども、そこに幸野さんに観衆で来ていただいて。その時に「部活動は今後どうなっていくと思いますか?」という質問を幸野さんにされて僕は答えられなかったんです。それで幸野さんのお話を聴いて僕もちょっと考えが改まるところがあって。それをきっかけに「高校野球の指導ってどうなんだ?」という視点で改めて見直していった時にまた色んなものが見えてきて、それが『甲子園は通過点です』に繋がったという感じですね。

選手も指導者も意識が変わってきた投手起用

店主 3年前は金足フィーバーで予選からほぼ1人で1500球以上も投げた吉田輝星投手がメディアでも大きく取り上げられてスターになりましたが、今回優勝した智弁和歌山は複数投手を上手く起用して勝ち上がりました。今後はメディアが喜ぶような1人のスーパーエースみたいな投手は甲子園ではもう出てこないのでしょうか?

氏原 そうかもしれませんね。指導者だけではなくて選手側の意識もちょっとずつ変わってきたかなという気もしています。

店主 盛岡大附属の渡辺翔真投手も二試合連続完封で迎えた3回戦は温存されたままチームが敗れましたけど「(優勝を目指す上で温存は)仕方ない」と言っていたのも印象的でした。

氏原 この本でも紹介している天理の達君なんかは極端な例ですけど、「そこまで甲子園に力いれんでもええやろ」みたいな感じなんですよね。甲子園という舞台が、自分が怪我をしてまで行くところじゃないという考えを選手側も少しずつ持ち始めているのかなという気がしています。

店主 「甲子園で燃え尽きて構わない」ではなくて甲子園の先にある目標は何なのか? それを甲子園や高校野球が終わってから考えるのではなく、小さい頃から考えられるような選手達が増えてきたらいいですよね。そうなれば文字通り「甲子園は通過点です」になりますよね。

氏原 甲子園の先を目指すからといって甲子園を目指さないわけではないですからね。プロを目指すから甲子園を目指さないのかというとそんなことはなくて。達君だって「メジャーリーガーになりたいです」とは言っていますけど、甲子園に行きたくないかというとそんなことはない。行きたいんです。でもそれは「凄いバッターがいるから」なんです。甲子園の舞台で、凄いバッターに打たれたとか、凄いピッチャーと投げ合ったとかそういう体験をしたいんですよね。

ベンチメンバー17人を使った盛岡大附属

店主 去年甲子園がなくなって、でもなくなったから高校野球を辞めるのかといったらほとんどの選手達が辞めなかったと思うんですよね。その時に選手も指導者も「オレたちはそもそも野球が好きだからやっているんだ」って、そういう気づきが全国でたくさんあったのかなって思うんです。

氏原 (コロナ禍で)何が嫌だっていったら甲子園や地方大会がなくなってしまったことももちろんですが、グラウンドに出られないこと、練習ができないことじゃないですか。最後の大会がなくなって涙する選手がいて、メディアはそこを大きく取り上げますけど、でも選手達が気づいたのは大会がなくなった悲しみよりも、野球ができる喜びの方だったと思うんです。

店主 私も『監督からのラストレター』(インプレス)という本にかかわらせて頂きましたけど、それはとても感じましたね。

氏原 コロナ前までの大会は、(勝つ為に固定メンバーで戦い)いろんな選手達の試合に出る機会を指導者が奪ってきたわけじゃないですか。それがコロナをきっかけにそうじゃないぞ、ということに指導者も気づいてきたと思うんです。

店主 本当にそう思います。

氏原 この夏の甲子園で盛岡大附属がベンチメンバー17人を試合で使っていました。こういうことが全国大会で起きるようになったことが大きいですよね。関口監督の選手起用は去年のコロナがあってのことだと思いますし、素晴らしいことだと思います。
去年の代替大会のとき、多くの監督が1人でも多くの選手を試合に出してあげようという試合をしたと思います。その経験があったから「もう少し子どもに目を向けてあげなければいけない」と自然に思える指導者が増えているのではないかと思います。


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