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高校野球に見えたポジティブな変化、そしてこれから(前編)

2021.9.15

「痛い」と言えなかった強豪高エース

店主 第1章の中にすごく印象に残る言葉があって、「痛いと自分で言える子どもを育てなければいけない」という新潟の高野連の方の言葉なんですけど。凄くいい言葉だと思う一方で、逆をいえばそれだけ痛くても痛いと言えない子どもがたくさんいるということなんですよね。今後、例えば甲子園がかかった大事な試合の前でも「痛いので僕は投げられません」と言えるような子どもが出てくるためには、何が必要になると思います?

氏原 これは単純に仲間意識ですね。自分の代わりに誰かいればいいわけです。完全に自分と同じレベルの高さではなくても、ある程度のレベルがあれば「あいつが投げても勝てるでしょ」となるわけです。それが「自分しかいない」「自分が投げなければ」となってしまうから、痛くても言い出せないところがあったと思うんです。それは選手層というよりも、(投手陣の)仲間意識があればできることだと思います。

店主 なるほど。そういう見方もできますね。

氏原 あとは「ここで潰れてしまっては意味がない」というように自分を大切にすることですね。これまではなぜ自分の体がおかしいのか、という体の異変を指導者が理解させてこなかったと思うんです。選手を思考停止にさせていたわけですよ。
この前別の媒体に書いた記事なんですが、野球強豪高出身のあるプロ野球選手は高校時代にずっと肘が痛かったそうなんです。トミージョン手術もやっているんですけど、(高校時代は)「みんなも痛いんだろうな」と思って我慢していたと言うんです。そうじゃないですよね? 自分で「おかしい」と思わないといけないんです。

試合に出ることで選手は伸びる

店主 でも選手層が求められるとなると公立高校は厳しくなりませんか? 1人頭の抜けたエースがいて2番手、3番手のピッチャーとは大分レベルの差があるというチームも多いと思うのですが、そうなると大事な試合の前に「今日は投げられません」とは言い出しにくいような気もするのですが。

氏原 そういう状況になって夏を迎えると無理ですよね。だから、夏を迎えるまでにいかにそうじゃなくしてあげるかが指導者の役目になると思います。

店主 それはなかなか難しい話になりませんか?

氏原 そこで第4章に登場するトレーナーの高島誠さんがキーになってくるわけです。高島さんは「どんな公立高校のピッチャーでも140km/hくらいは投げられるようになるはずだ」と言っています。

店主 高島さんが指導している武田高校は私立ですけど練習時間が50分の超進学校ですよね。要は公立高校であってもトレーニング次第だということですね。

氏原 そうなんです。球数制限ができて1人のピッチャーでは勝てないとなって他のピッチャーを使い始めてみたら、意外とそのピッチャーが活躍したりするじゃないですか。

店主 多くのピッチャーをたくさん試合で使ってあげることも大事ということですね。

氏原 この夏に甲子園にも出た神戸国際高校はレベルが拮抗した選手が多くて、どの選手を出してもある程度の活躍をするのでいつも15、6人くらいが試合に出ている「全員野球」をしているチームなんです。監督さんに「(新チームができた)秋の段階からレギュラー9人でやるのと、全員試合に出すのとどちらの方が子どもは伸びますかと?」と聞いたことがあるんですが、そうしたらやっぱり「全員試合に出している方が伸びる」と言うんですね。

店主 秋からメンバー固定で戦っているチームの方が強いという固定観念がありますけど、そうじゃないんですか?

氏原 そうなんです。それはなぜかと言ったら、試合に出ることで、例えば今まで補欠だった子が(例え打てなかったとしても)「なぜ打てなかったか?」という理由を考えますよね? 考えてその理由が分かると練習の質が上がる。練習の質が上がると上手くなる。上手くなるとレギュラーとの差がなくなってくる。そうすると練習の強度が上がります。そうやっていけば(一冬を越えて)3年を迎えたときにチームは強くなるということなんですね。

店主 試合で使うことで選手が伸びるという、まさに幸野さんがおっしゃっていることにも通ずる話ですね。

氏原 そういうことですね。高度な戦術があってそれを短い期間で浸透させたいから固定メンバーで戦いたいという気持ちも分かるんです。でもやっぱり高校生は試合に出したら変わると思うんです。

後編に続きます。



氏原英明
1977年ブラジル生まれ。奈良大学を卒業後、地方新聞社でのアルバイト勤務を経て、フリー活動を開始。高校野球を中心に活動を続けるが、野球を通じた人間性、人生観を伝え続け、Numberのほかに野球専門誌で活躍。WEBの世界でも「人間力×高校野球」(高校野球情報.com)と題したコラムを連載している。最新刊は2018年夏に上梓された『甲子園という病』(新潮新書)。長年にわたる甲子園取材の知見を凝縮した筆者渾身の一冊としてスポーツジャーナリズム界を超えて話題に。オンラインサロン「甲子園が続いていくために私達は何をすべきか?」〜サスティナブルな育成〜も主宰している

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