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「ノートに書けば、自分で考えられるようになる」伊藤美誠|世界を獲るノート

2021.9.9

「野球ノート」を部員達に書かせているチームも多いと思います。しかし、いつの間にか書くことが目的になっていませんか? 「野球ノートは」何のために書くものでしょうか?
『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(島沢優子/カンゼン)という本があります。世界を目指すトップアスリート達が日々ノートに何を書き、何を考えているのかが紹介されている本です。この本の中から、今回は東京五輪卓球混合ダブルス金メダリストの伊藤美誠選手の『コーチと書いた79冊』の章の一部を紹介したいと思います。ぜひ参考にしてみてください。


ノートを書くことで、自分の考えを言えるようになった。
「伝えられるようになるとコーチも聞いてくれる。それもあって、コーチと私の関係が対等になったと思う」



誰しも勝ったときよりも、負けたときのほうが謙虚になれる。よって、伊藤も新たな学びを受け止められた。
「勝つ試合も見ますから。負けてばかりじゃないですし(笑)。どの場面でどう体を使えているとか、逆にちょっとここは違うねとか。そういうポイントみたいなものをノートにどんどん書いています」

では、綴ってきた行為は、伊藤にどんな効果をもたらしたのか。

それはズバリ「自分から考えられる」ようになったことだという。
「ノートに書けば、自分から考えるようになる。何も考えずに動画や他選手の試合をただ見ているのではなく、ノートに書くことが前提であれば、(書きつける)ポイントとかを考えるようになるんだと思う」

伊藤はまた「小学生までは、自分の言葉を持っていなかった」と話す。
「6年生まで、主なコーチはお母さんで、お母さんが恐かった(笑)。思っていることなんて言えなくて。でも、6年生の終わりくらいからお母さんが、少しずつ私の話を聞いてくれるようになった。そのあとに松崎コーチがついてから、もっと意見を言えるようになった」

ノートはのちに「対策ノート」と呼ばれるようになった。取材した2018年秋の時点で、伊藤が手にしていたのは79冊目。80冊目からは、伊藤がひとりで紡ぐことになる。

それは、リオ五輪開催期間に、伊藤が選手村、松崎はスタッフ宿舎と物理的に離れ離れになったことに起因する。
「リオを境に、動画も別々に見るし、ノートも別々になっちゃいました」

動画を一緒に見る機会がなかったリオ五輪を機に、師弟ノートは新たな局面を迎えた。
「ノートを書き始めたときは、コーチと別のことを書いていたのに、最後は大体同じことを書くようになった。読み返すと、『あうんノート』みたいな感じで。最初は違っていたのに、思うことが一緒になったというか。だから、まあ、(やめても)いいか、みたいな」

リオを境に、ノートは別々になったものの、絆は深まっている。
「私的には、心も……なんですけど」と茶目っ気たっぷりに笑うが、そんなジョークを言えるのも松崎と良い関係を築けているからこそだ。

ノートをつけていなかったら?

そんな質問に、伊藤は「自分で考えられる選手になれなかったかもしれない」と答えた後、こう言った。
「ノートもそうだけど、そもそも思ったことを口に出せない環境だと難しいですよね」

どんなものかと言えば、コーチと選手が対等でない環境だ。
「他の人はコーチと選手の間に差ができてしまいがちなのかなって思います。選手よりも、コーチが上? みたいな。そうではなくて、平等だと思う。プレーしているのは選手ですよね。私は選手としての自分の気持ちをわかってほしいし、松崎コーチもそれをわかってくれていると思います」

勇気を出して思っていることを話したのだろう。
「あ、なんかちょっと興奮したのか、熱い」と手のひらで顔をあおぎながら率直に話してくれた。
「そういうこと(対等な関係性の重要性)をわかってくれるコーチでないと、私のコーチはできないと思う。そのくらい私は扱いが難しいと思います。選手に意見されるのが嫌な方(指導者)もいますよね。でも、私は対等に意見しあえる関係でいたいので」

そして、続ける。
「そんな私を受け止めてくれて、プラスを生み出してくれる。幅を広げてくれる。選手の意見を大事にしてくれる。それが松崎コーチ、かな」

女子選手は女子コーチのほうがいいという考え方もあるが、伊藤は「女子同士だと、お互い気が強いと言葉がきつくなるって思ったりするけど、私は(男女どちらかというよりも)慣れのほうを優先したい」と話す。

コーチを替える選手も少なくないが、伊藤は「替えるのは好きじゃない」とハッキリ言う。
「他のコーチから新しいものを取り入れることはあっていいし、当然だと思う。でも、担当を替えるという選択肢は私にはありません」

練習後は多くの時間を割いて松崎と議論を重ねる。自分で感じたことは言葉を尽くして伝え、コミュニケーションをきちんととっている。



伊藤美誠(いとうみま)
2000 年、静岡県出身。16 年リオデジャネイロ五輪卓球女子団体で銅メダル獲得に貢献、五輪での卓球競技では史上最年少15 歳でメダリストに。18 年度全日本卓球選手権大会女子史上初2 年連続3 冠。152 センチ、45 キロ。血液型O

著者:島沢優子(しまざわゆうこ)
ジャーナリスト。筑波大学体育専門学群4年時に全日本女子大学バスケットボール選手権優勝。2年間の英国留学等を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年からフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。著書に『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『部活があぶない』(講談社現代新書)など。日本文藝家協会会員。


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