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【準硬式】未来の獣医さんが野球をやる理由とは?#2麻布大学

2021.7.23

ちょっとマイナーな「大学準硬式野球」の魅力を高校生に伝えるべく、実際に準硬式に携わる大学生に魅力的な部活を紹介してもらう本連載。第2回目は「勝利だけがすべてではない」新しい野球の形を体現している麻布大学準硬式野球部。関東連盟の学生委員である山田力也(青山学院大)くんがリポートする。


スーパー多忙な学生生活。「それでも野球やりたい」に応えるチーム作り

麻布大学は獣医学部と生命・環境科学部の2つからなる大学だ。獣医志望の学生が多くいる。そんな「未来の獣医さん」が野球をやる意味はどこにあるのか。そこに新しい野球の形があり今までの常識を疑うキッカケがあるのではないだろうか? そんな観点から、麻布大学のトピックを取り上げていこう。

全体練習は19時から


麻布大学の野球は19時から始まる。なぜなら付属の高校がグラウンドで19時まで練習をしているからだ。しかしながら、やむを得ず休む者以外はほとんど全員参加してくる。私は「そんな遅い時間に練習したことないし、辛そう」と思ってしまうのだが、麻布大生は「サークルと考えればそんなにおかしいことではない」という感覚だそう。これを良いととらえるかは人それぞれだろう。しかし、そんな気軽なノリがあるからこそ、もう一度野球を楽しめている部員がいるのだ。


練習はしっかり勉強したあと夜から始まる。


部員の7割が未来の獣医師

獣医学部は6年制であるが、勉強は相当大変だ。試験も多く、3年から研究室に配属されるとさらに忙しさが増すため、基本的に引退は3年の秋。4年制大学の準硬式野球部と引退時期は変わらない。またその忙しさのあまりバイトは2年生までしかできないということもしばしばあるようだ。そんな状況でも野球がしたい。麻布大学準硬式野球部の魅力に惹かれる部員は数多い。

勝利“至上”主義はもう古い!?


麻布大学準硬式野球部はその名の通り体育会として存在している。しかし前述の通りその雰囲気はサークルのような気軽なものである。体育会としてある以上勝利を目指してストイックにやりたい選手もいるだろう。

それについて主務の財部駿介(3年・光明学園相模原)に聞くと、「モチベーションの乖離は正直ありますね」とあっさり認めたうえで、「モチベーションの乖離というより高校野球未経験が多いので何をしていいのかわからない部員がいるというのが正しいを思います」と言う。

経験者からすれば時に苛立つこともあるだろう。しかし辞めていく部員はほとんどいないと言う。「できる人が教えて上手くフォローしながら活動しています。こんな環境のせいか上下関係がきつくないです」。そんな活動姿勢に惹かれてか新入生は10人を超えているという。コロナ禍においてその数字は快挙と言っていい(私の所属する青山学院大学準硬式野球部は未だ新入生0人である)。「見捨てない環境」が麻布大学準硬式野球部の魅力だ。


野球未経験者であっても部活を楽しむことができる懐の深さが魅力。

高井一世(2年・静岡県立富士)は、小学校時代にしか野球をやったことはない。
「準硬式についてよく知らずに友達についてきて入りました。野球はやってみたかったので出来て嬉しく思いますしチームの雰囲気も良く楽しく野球をやることができています」。

実は、麻布大学には硬式野球と軟式野球部が存在せず野球サークルもない。野球をやるなら準硬式“しか”ないのだ。そんな唯一の野球部が厳しい練習をしていたらどうだろう。野球に興味があっても入部できないプレーヤーを増やすことになる。そう考えると、楽しい雰囲気づくりをしている活動方針にも頷ける。大学で野球の魅力に気づかされ社会人になって草野球を始める卒業生もいるというのだから、麻布大学準硬式野球部でやる野球の楽しさは本物なのだろう。


高井一世は小学時代以来の野球を楽しんでいる。

私は準硬式野球の「幅の広さ」が準硬式野球の大きな魅力だと考えている。
麻布大学のような楽しい野球をやる大学もあれば中央大学のような全寮制の大学もある。どちらもなくてはならない存在だ。しかし単純な興味で、強豪大学についてどのような視線を向けているか聞いてみた。すると「僕たちも獣医になるために必死に勉強を頑張るなど情熱があるので、強豪校が野球に情熱を注ぐのもわかります」。
どうやら準硬式野球では多様性に対する理解も深まるようだ。

麻生大学準硬式が描く未来とは?


麻布大学の当面の目標は春リーグ1勝することだという。全国選手権大会出場を決めた神奈川大学、清瀬杯出場を決めた関東学院大学という全国レベルの大学が2つもある神奈川リーグで1勝を収めることは難しいことだ。しかしチーム全員で勝ち取った1勝は忘れることのない思い出となるだろう。私はその1勝をぜひ見てみたい。もしたとえ全敗したとしても彼らのバックグラウンドを理解していれば誰も彼らの野球を笑ったりすることはないだろう。


野球の楽しさを知る人を一人でも多く増やしたい。

麻布大学は遊びで野球をやっている訳でも、勝利を諦めている訳でもない。ただ「全員で勝ち取った勝利」に価値を置いているのだ。

大学の勉強がどれほど忙しくても、どれほどコロナ禍で活動が制限されようとも野球をやる。なぜなら「野球が好きだから」。この純粋な気持ちを決して無駄にするとこが無いように準硬式野球はその受け皿であり続けたい。「野球をやりたいけど実力に自信がない」と思っている人だけでなく遮二無二野球をやってきた高校生にも新しい野球の形を発信していきたいと思う。新しい角度から野球を見つめなおすきっかけになれば幸いだ。

取材にご協力いただいた麻布大学の皆様、本当にありがとうございました。

(写真・文/山田力也)


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