当たり前のことだが、高校球児は高校生だ。卒業後は進学や就職と、さまざまな選択をしてやがて社会に出ていく。今回は千葉県立我孫子東高校に注目。卒業後、そのほとんどが就職の道を選ぶという彼らの一番身近には、心強いサポートをしてくれる監督がいた。
ここでただ、野球を教えたいだけじゃない
「この子たちは本当に素直で、いいヤツらなんですよ」周囲をぐるりと緑で囲まれた、自然豊かな場所にある千葉県立我孫子東高校。2011年に千葉県立湖北高校、千葉県立布佐高校が統合し開校された。昨年の秋季大会、今年の春季大会連続で16強を獲得し、この夏のダークホースとして注目を集める高校だ。
冒頭の言葉は同野球部の坂本賢司監督に、部員たちの印象を伺ったときのものだ。部員たちの素直さに応えるように、坂本監督の指導にも愛があふれている。練習中も幾度となく、「ただ野球をやるんじゃない、考えて練習をしろ」というメガホンの声がグラウンドに響く。
「この素直ないいヤツらに誇りを持ってもらいたい。そのために必要なのはやはり結果。公認野球規則にある通り、野球の試合の目的は『勝つこと』です。だったら勝つ方法を教えなければなりません。野球はシュートが得点になるサッカーやバスケと違い、人が得点になるスポーツです。だったら人を鍛えよう、と。人を鍛えるとは準備・確認・相手目線で物事が考えられるようになること。民間企業の研修やよく参加しているセミナーでの話しを話すことが多いです」。
部員と監督が交わす熱いLINE
部員と監督の絆は、学校の外でも見られる。選手全員とマネージャー、監督、顧問が一同に参加するグループLINEでは、毎日のように今日の反省点や明日の練習の確認、部員一人ひとりが考えたこと、先生が気になった記事などが、長文で共有されている。監督からの一つ一つの言葉は厳しさがあるが、その中に「期待しているからこそ」の部分がしっかりと表れており、選手たちもそれをしっかりと受け止めているようだ。
全校生徒のうちほとんどが進学ではなく、就職を選ぶという我孫子東高校。野球部も例外ではなく、マネージャーを含むほとんどが高校で野球生活を終え、その後は就職の道を選ぶという。就職に向けての相談も受けるという坂本監督。LINEには、野球を通して学ぶことで、厳しい社会に出ていく生徒を応援したいと考える坂本監督からのゲキが飛ぶ。しっかりとした意思を持った生徒を応援し、今後も頑張ってほしいという激励の言葉は、部員一人ひとりのことを考えた愛のムチだ。
そんな坂本監督は、昨年春の甲子園に21世紀枠として選出されたことも記憶に新しい、福島県磐城高校の出身だ。昨年春はコロナウイルス感染症の影響で大会が中止となり、磐城高校は実に25年ぶりの甲子園が消えた。
我孫子東高校野球部のLINEでは、つい先日、とある手記が坂本監督から共有された。坂本監督の磐城高校時代の先輩で、甲子園出場経験もある菅野哲正さんが書いた、全国のコロナ世代の球児たちへという手記だ。
手記を読んだ部員たちはこれを読み、それぞれが熱量を持った感想をLINEに共有していた。中には、「ちょっと感動して、泣かされました」と坂本監督がうなる感想文もあったという。
「素直で、いいヤツら」だからこそ、一緒に野球で勝ちたい。勝つために考えることで、卒業後すぐ社会という荒波に向かっていく部員たちにとって必ず希望になることがたくさんある。それは日々の声掛けや、LINEといった部分に色濃く表れていた。
「一つでも多く勝ち上がって、我孫子東高校で野球をできてよかった、我孫子東高校を卒業してよかったと思ってくれる部員が一人でも増えてほしい。社会にでた後に、キレイな思い出だけではなく、実際に必要な気力を育てていきたいです」と坂本監督。
その熱い思いを一心に受け、部員たちは最後の大会に挑む。
後編はコチラから。
(取材・文/山口真央)