学校・チーム

【my focus】苦労が工夫と成長を呼ぶ連合チームの環境

2021.2.4

少子化の波は高校野球にも影響を与えている。近年、高校野球界でも名前を聞くことが増えてきた連合チームは、2012年の制度緩和による影響もあり参加校数は徐々に増えている。ここ数年を見ても、2018年が81校、2019年は86校、2020年は異なる大会形式となったが、さらに増加傾向がみられた。今後も増えていく可能性がある連合チームだが、当然ながら苦悩は多い。今回は令和2(2020)年度夏季埼玉県高等学校野球大会に出場した「桶川西・上尾鷹の台・上尾橘」の3校連合チームのマネジメントを現在行っており、連合チームの運営・指導には2018年から携わる桶川西の鈴木良先生に話をうかがった。

※写真は現在所属する部員たち。桶川西10名、上尾鷹の台2名、上尾橘1名の計13名。(写真提供:桶川西・鈴木良先生)


連合チームにおける苦労と気遣い

連合チームの苦労は人数が少ないことだけではない。鈴木先生は連合チームの大変なところをこう語ってくれた。

「まずは練習時間の確保ですね。近くの高校と組めれば平日も合同で練習できますが、そうはいかないケースも多い。だいたいの連合チームは場所が離れている高校同士で組んでおり、移動時間を考えると平日に集まって練習するのが難しくなることもある。また、試験の日程も高校ごとに違うので、日程調整も大変です。それぞれの高校の事情があり無理は言えませんので」

指導においても連合チームならではの気遣いを意識している。例えば、バッテリーは同じ高校の部員でなるべく組ませる。同じ高校の部員でバッテリーを組めない場合は、合同練習の際にはバッテリーでキャッチボールをさせ、その他の練習でもペアを組ませ、できるだけ長くコミュニケーションをとらせるなどの配慮を行っているという。練習後もすぐに帰宅させるのではなく、部員同士で会話をする機会を設ける。一緒に過ごす時間が少なくなる連合チームでは、同じグラウンドに立つ時間は非常に貴重なものとなる。


3校連合チームで練習のマネジメントや指導を行う桶川西の鈴木先生。連合チームの難しさとやりがいを語る。(撮影/長島啓太)

連合チームならではのメリットとは? 

苦労ばかりが目につきやすい連合チームだが、良い点もある。興味深く感じたのは「指導者の人数が増えること」だ。連合チームに参加する高校それぞれにいる指導者が練習に参加するかたちをとれれば、部員に対する指導者の人数は増えることから、部員はより充実した指導を受けられる。

また、違う高校、違う価値観の部員や指導者と交わる機会も大きなメリットになると鈴木先生は考える。価値観の違う他校の部員とコミュニケーションを取るためには、部員同士の気遣いも必要となりその視点が養われるからだ。

「最初は部員たちもお互い様子をうかがっていたみたいです。それでも、日々の練習や試合をこなしていくことで、徐々に打ち解けてきたのかなと感じましたね」

鈴木先生に、連合チーム立ち上げ当初の様子について聞くと、当時の様子を思い出しながら穏やかな口調で語ってくれた。「高校野球がやりたい」「公式戦に出たい」というシンプルな思いを持つ部員たちが学校の垣根を越えて協力し、上手くなろうとする。それを支えることは、通常の指導とはまた違ったやりがいがあるのかもしれない。


テスト期間は学校により違うため、連合チームで練習できる時間はすごく貴重な時間だ。(写真提供:桶川西・鈴木良先生)
指導者目線でも、「いろいろな考え方を知れること」はメリットだと鈴木先生は語る。連合チームは練習時間が短いために、指導者同士の密な連携を意識している。その際に、考え方が違う若い指導者の意見を聞くのは大変参考になるとのこと。連合チームという環境から学びを得られるのは部員だけでなく、指導者も一緒だ。

発端はチームがつくれない選手たちへの救済措置的な存在として生まれた連合チームだが、それゆえの苦労がある一方で、複数の価値観を共存させながら練習に取り組めるというメリットもあるようだ。連合チームはコミュニケーションのあり方や違う価値観に対する考え方など、今の時代において必要なことを提示し、体感することもできる場なのかもしれない。

今後連合チームが残していくであろう実績や、様々な取り組み、そこでの部員や指導者たちの挑戦していく姿を、今後も追いかけていきたい。

(取材・文・撮影/長島啓太)


PICK UP!

新着情報