「IWA ACADEMY」でチーフトレーナーを務める木村匡宏さん。トッププロから小学生まで幅広い年代の選手を指導するパフォーマンス改善のスペシャリストだ。前編は木村さん自身の野球経験、トレーナーになるきっかけなどについて話を聞いたが、後編は長い指導経験から気づいた重要なポイント、高校生などの育成年代において心がけておくべきことなどについてお届けする。
-大学を卒業して約2年間銀行員として働かれて、上達屋でトレーナー人生をスタートされましたが、トレーナーとして苦悩などはありましたか?
1回のレッスンが30分なんですけど、そこで結果を出さなければならなかったことです。その30分で「確かに変わった」という実感が本人になければ、もう次はないんですね。ありがたいことに、月に150名ぐらいの方に来て頂いて、1日7時間から8時間レッスンを担当する毎日でした。おかげで、本当にたくさんの選手に出会うことができて、正しい理論を押し付けるよりも、選手ごとの感覚にフィットすることを実際に調整していくなかで本人が掴んでいくことこそ大切なんだと皆さんに教えて頂きました。そのなかには、トッププレーヤーもいます。オリンピックから帰ってきて、日本のエース級の立場の方なのに、これからメジャーに挑戦したいので、もう一度イチから身体の使い方を見直していきたいんだと。とても貴重な経験でした。
-木村さんの著書、『バッティング・メソッド』、『スローイング・メソッド』ではそれぞれの人に合った“パワーポジション”が大事だということが紹介されていますが、それに気づくきっかけのようなものはありましたか?
さかのぼると、10年以上、本当にたくさんの方と一人一人のセッションを積み重ねてきたことです。マンツーマンで限られた時間で効果を実感してもらわないといけないというのが大きかったと思っています。それを考えながらサポートしていると、選手によって感覚が違うということがよく分かってきたんですね。特にパワーポジションという発想のヒントになったのが、2018年の日本シリーズでした。サポートしているソフトバンクの上林(誠知)選手が三振した試合をたまたま見て、良いときの映像と比べてみると左肘の角度がわずかに違ったんです。そこで、調整がよかった頃の左肘の角度に調整したところ、フォームのあらゆるところの修正が勝手に整い、3戦目の決勝ホームランへとつながったんです。このときに、人によって、身体がつながるパワーポジションが存在するのかもしれないと思い、研究と実践がスタートしました。
-バッティング、スローイング、どちらでも選手それぞれの感覚が重要ということですね。
『理想のフォーム』と言われるカタチがありますけど、「理想のフォーム」を語る指導者や一流選手自体のお話がもうそれぞれ違うんですね(笑)。本当に、いろんな考え方や教え方があって、今はYouTubeなどもあり、さらに知識が多様化しています。ここで大切になってくるのがマッチングです。どの知識やスキルが自分に合っているかどうかを知ること。その方法がわかればいいなと。そうすると自分自身を知ることになるので、脳科学からのアプローチが大切になってくるんです。脳は一人一人違う。つまり感じ方が違うので、その選手の身体がどういう感覚をもっているのかを知ることが大切です。
-最後に中高生など育成年代の選手や指導者に向けて気を付けてもらいたいことやメッセージがあればお願いします。
「周りに遠慮なく、野球をめちゃくちゃ好きになってください!」ということです。メジャーにいって活躍する選手は、みなさん、本人が気づかないほど、めちゃくちゃに野球が好きです。だから、どうやったら野球が上手くなれるかをずーっと考えています。特に中高生は、思春期といって、脳も身体も不安定な状態を過ごさなくてはなりません。ちょっとしたことで不安になったり、悩んだりします。成長期を迎える選手は、常に痛みと隣り合わせの状況かもしれません。一方で、長い人生の中で、好きなことには最も純粋に熱中できる時期でもあります。そんな時期に自分を理解してくれる人に出会えたり、何かに没頭できる体験をするというのは将来的にも大きなプラスになると言われています。指導者の方には、彼らがまだまだ成長の途中にあること、人間として未発達の中にいることを理解して頂き、熱い指導に当たって頂きたいです。
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▼プロフィール
木村匡宏1979年福島県出身。福島県立福島高校、慶応大学の硬式野球部でプレー。大学卒業後、約2年間の銀行勤務を経たのちにパフォーマンスコーディネーターの手塚一志さんが代表を務める上達屋でトレーナーとして活動。2016年3月からは岩隈久志さんがオーナーを務める「IWA ACADEMY」のチーフトレーナーとして子どもからトッププロ選手まで多くの競技者のサポートを行っている。
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