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【長野・飯山】冬場の5万スイングが夏に開花

2021.2.6

2年連続の夏の大会決勝進出には、プロ注目の右腕・常田唯斗(3年・専修大へ進学)が大きく貢献した。好投手の陰に隠れがちだが、見逃せないのが打力だ。高い得点力で投手陣を援護してきた。打撃強化は吉池拓弥監督が就任以来こだわってきたことでもある。冬場に課した5万スイングが、夏に開花するルーティンが確立しつつある。

※写真はピロティの壁に張られた、選手各々のスイング数達成状況。


12月中旬から翌年3月の対外試合解禁までに5万スイング

甲子園に出場して19年夏は6試合で36点、20年夏は6試合で38点と、高い得点力が決勝進出を後押しした。
その強力打線をつくっているのが、〈冬の名物〉となっている5万スイングだ。雪が積もる12月中旬から翌年3月の対外試合解禁までにバットを5万本振るメニューである。

以前は、期間が短く、「2万」などスイング数も少ない設定だった。それを吉池監督が就任した2年前の冬から5万へと増やした。1日1000スイングを目安に、冬期間を50日として算出した目標値だ。

5万スイングは、期間とスイング内容を変えながら行っている。全体での打撃練習以外に、約3ヵ月を2週間ごとの「5期」に分け、各期で1万スイングを当面の目標とし最終的に5万本に到達するように設定されている。


バランスディスクに乗って行うティーバッティング。

バランスボールに座って行うティーバッティング。

ミニトランポリンでバウンドさせたボールを打つ。

タイムを計りながら全員で一定量を打つ連続ティー。


「スイングがどうのこうの」よりも「こういう打球を打とう」を大事に

室内で行うティー打撃が基本で、通常のティー期間、マシンなど前方から来るボールやバドミントンのシャトルなどを打つ期間、素振りの期間、数をかせぐ連続ティー期間を4つの班がローテーションで行う。そして最後の2週間は、全員で「固め期」として好きな方法でフォームを固めるようにしている。

ティーメニューを班ごとに変えているのは、「シーズン中の打撃の調子が一律にならないようにしたいから」と吉池監督。全員が同じサイクルで好不調の波が来るのを避けたい狙いがある。

振る本数以外、特段ルールはない。全員が個人所要の木製バットは使っているが、長尺バットや重いバットなど種類は自由。吉池監督は「練習試合の相手校での取り組みを見てきたりして選手も感じるところがあるので、まかせている」と細かい注文はつけない。

これは冬場に限ったことではなく、吉池監督はフォームについての指導をしない。「皆さんに打撃について聞かれるが、チームでこうしようというのはつくらないです。各自で数を振っていく中で、自分が一番力の入るスイングになっていくので一切言わない」のだという。

それには吉池監督なりの経験がある。

「僕自身、経験は短いが、(前任校の母校)丸子修学館で講師やっていたときに、こういうバッティングしろと言っても、合う子、合わない子がいました。入ってきたときに力があった子が3年間通したら、1年のときの方が良かったなんてこともあった。こちらの力不足でそうなるのが嫌で飯山に来てからは言わないようにしています」と振り返る。「もちろんヒントを与えたり、これだけはよくないと言ったりはする。自分に合ったスイングを引き出そうとはします」。

意識させるのは、スイングではなく打球だ。「スイングがどうのこうのよりも、こういう打球を打とう、こっちの打球をイメージしよう、という指導をする。それで自分がどうやればそっちに打てるか考えてやるようになる。それがここのところの打線の結果になったと思います」。

昨秋は5番に座った松澤空良(2年)は、1年だったひと冬でスイングスピードが10キロほど上がり、140キロを超えた。「数を振ることで下半身も鍛えられて粘りが出た。それで変化球にも対応できるようになった」と変化を実感。期間ごとにメニューを変えることで「集中力が続く」と利点を挙げる。

昨秋は県大会初戦で、緩い球を打たされる形で相手の術中にはまり敗れた。甲子園に行った世代も春季大会は同じような形で敗れている。打撃に自信があり、しっかり振っていくチームがはまりやすい負けパターンだ。

しかし吉池監督は「新チームになってからはどんどん飛ばせと言っている。そこで振る力をつけて最後の夏に合わせていくということになります」と、秋や春の時点でこうなることは織り込み済みだ。

修正していくのは夏の大会の2ヵ月ほど前から。低い打球にしていくように、25メートルほど前方に防護ネットを置く。「ネットすれすれを越えて外野のフェンスまで届くくらいの気持ちで、低く、伸びる打球を打とうと指示する」。

ただし、このスタイルを通年でやることはない。「打撃が縮こまってしまうんです。やはり夏に勝ちたいので、1年通してトータルで夏に照準を合わせるのが僕のイメージです」。目先の結果よりも夏を最重要視する方針でいる。

リポート第1回 雪国のハンディをプラスに変えて
次回リポート第3回 吉池拓弥監督・関壱星主将・木村広美投手インタビュー に続く

(取材・文・撮影/小池 剛)


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