選手が個々に、週単位で決める“自主練”メニュー
グラウンドの脇に置かれたボードには選手名の入った「課題練習計画表」と題された紙が貼られていた。火曜日から金曜日(月曜日は休養日)までの“自主練”で何に取り組むかが、「テクニック」と「フィジカル」に分けて、それぞれ手書きで記入されている。選手たちは自らこの計画表をつくり、これに沿って自主練習に取り組んでいるという。自主練習に重きを置く方針は、城南高校にやってきて2年目の中野監督の主導で始まったものだ。「まずは個の力を高めてほしい」という考えに加え、「こうなりたいという姿を自分で設定できて、そのために何をするかを自分で決められる環境をつくりたかった」という思いからの取り組みだという。「それこそが野球を楽しい、面白いと思ってもらうために必要なこと」という中野監督のポリシーから来るものでもある。
だが、最初は、自主練習の時間が締まったものにならない時期もあったという。目的意識が明確でない中での自主練習は、全体練習に比べどうしてもテンションが下がってしまいがちだったのだ。そこで中野監督が行ったのが積極的な情報提供である。
まず試合での成績、体力測定の結果、フォームの連続写真など自己分析、課題の自覚に生かせる材料を選手たちに渡すようにした。さらに監督自ら練習方法に興味を持った高校の野球部を訪問し、そこで学んだことや指導書、ウェブサイトに掲載されている情報も集めて伝えていった。選手はこうした情報を活用し、個々に課題克服に取り組むようになっていく。自主練習は徐々に内容の濃いものになっていった。
情報は練習時に直接伝えるだけではなく、野球部でつくったグループチャットでも共有し、選手たちが新しい情報にいつでも触れられるようにした。今年6月にはセイバーメトリクス(統計学を用いた野球の分析)に関する講義を専門家に依頼し実現させたほか、その後も研究者や専門家たちが主催するオンラインサロンやウェビナーに積極的に参加しており、提供される情報は日に日に多彩になってきている。また、ウェイトトレーニングなどに関しては、チームをサポートする田中來人トレーナーから様々な指針が示されており、選手たちはそれを参考にトレーニングを行っている。
自主練習を楽しみにしている選手が増えてきた
「選手が採り入れたいと思う可能性のある情報をこれでもかと並べて、いつでもヒントを得られる状況をつくろうと。最初は自分たちが情報を集めて選手たちに見てもらうという形だったのですが、今では〈その動画、もう見ています〉なんて言われることも増えてきました。自主練習に楽しさを感じる選手が増えるにつれて、全体練習をきびきびとこなして、自主練習の時間が減らないようにする雰囲気が生まれてきたように思います」(中野監督)情報はあくまで、個別ではなくチーム全体に対して出していることもポイントと言える。
「監督から〈やれ〉と言われたら、やらなくちゃいけなくなりますよね(笑)。それだと楽しくなくなる。だから、こちらから個別の選手に〈これを見ておきなさい〉〈これをやるように〉とは言わないようにしています。あくまで参考にしてもらうために、選手の目に入るところに置いておく感じです。もちろん、選手から質問がきたときにはしっかり答えますし、そのときはいくらでも教えますけどね」
楽しみながら野球に取り組んでもらうための“自主練”。その“自主練”を内容のあるものにするための積極的な情報提供。このフローが城南高校野球部のアイデンティティとなりつつある。
次回「トレーナー・マネージャー・実習助手・分析担当ら選手を支える組織の強化」に続く
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