学校・チーム

高校球児向けセイバーメトリクス講義——福岡県立城南高校野球部と株式会社DELTAが実験的取り組み

2020.8.28

アメリカでMLBを対象とした研究として誕生したセイバーメトリクスは、「比較的近い力量のチームで構成されたリーグ」で「多くの試合を行う」ことでとらえられる統計的傾向から導き出される理論だ。そのため日本の高校野球との相性はあまりよくないとされる。
だが、それでも通じる部分があるはずだと考えたのが福岡県立城南高校野球部だ。〈NEXT BASEBALL〉をスローガンに掲げる同部は、セイバーメトリクスなどを用いた野球分析を手がける株式会社DELTAにコンタクトをとり、選手向けのセイバーメトリクスの講義を依頼した。
野球分析の普及を目指す株式会社DELTAとしても若い世代に向けたレクチャーの機会を求めていたこともあり、6月27日に講義が実現。今回は講師を務めた同社・大南淳氏に、当日の様子をリポートしてもらった。

*講義は講師のマスク着用、講師と部員の距離をとるなど、新型コロナ対策を徹底して実施された


「高校野球×セイバーメトリクス」で、どんなヒントを与えられるか?

今回の講演は、弊社が制作に携わった書籍『セイバーメトリクス入門』(水曜社)を手にとってくださった城南高校野球部の中野雄斗監督から、「高校生向けにセイバーメトリクスの講義を行うことができないか」という依頼があり、実現に至りました。

高校野球とセイバーメトリクスはそれほど親和性があるとは考えられていません。セイバーメトリクスにおけるデータ分析は「多くの試合が行われるプロ野球では有効だが、一発勝負の高校野球では通用しない」と考える人も多いと思います。

でも、140試合以上行われるプロ野球も1試合1試合の積み重ねであることには違いありません。「どうすれば試合に勝てるのか」という基本的な部分は、プロ野球でも高校野球でも共通しているはずだと私は考えています。

このセイバーメトリクスについて高校生向けにレクチャーするというのは、おそらく日本では前例がないものと思われます。今回機会をくださった城南高校は県内でも指折りの進学校で、県外から野球留学をしているような生徒がいるわけではありません。また進学校ゆえに練習時間も限られています。そういった制限がある環境下でどうすれば強豪校に勝つことができるのか、という目標をお持ちのようでした。こうした目標に対し、何かヒントを提供するためには、どんなアプローチをすべきか? という観点から講義内容を検討しました。

講演内容と生徒たちの反応

今回は以下のような章立てで講義を行いました。

●第一章 勝利と得失点
●第二章 得点発生のしくみ
●第三章 打順を考える
●第四章 戦術・作戦を考える
●最終章 高校野球とデータ

第一章、第二章では、普段の選手視点からいったん離れ、野球というゲームを改めてとらえ直すという作業を行ってもらいました。選手は普段、「この打席でヒットが打てるかどうか」「エラーせずに守れるか」といった目の前のプレーにどう対処するかに集中しています。ただ今回はまず野球というゲームがどういう仕組みで成り立っているか、その仕組みから考えてどういったプレーが必要か、そのためには練習でどういったことに時間を割くべきか? という普段とは異なる順序で野球を考えてもらいました。

第二章では、私から生徒に「得点とは、どうすればとれるのでしょうか?」という質問をしました。これに対し、生徒からは「よく打つ」「ランナーを還す」「相手の失策を数多く誘う」といった答えがありました。非常にシンプルな答えです。これに対し、私も得点が生まれる仕組みを生徒の答えと同じくらいシンプルに解説し、さらにその根拠となる統計データも示しました。野球とデータの親和性の強さを理解してもらえたのではないかと思います。このパートに対しては、生徒からは次のような感想をお寄せいただきました。

「勝つために必要なことは意外に単純であるということを知ることができた」
「今回の講演で学んだ得点との結びつきが強い能力を練習で伸ばしていきたい」
「野球において攻撃と守備が独立しているという当たり前の事実から、新たな気づきが得られた」

統計的な視点からの数値をもとにした話であり、受け入れてもらえるか不安な部分もありましたが、耳を傾けてもらえて安堵しました。城南高校野球部の皆さんの野球に対する柔軟な思考に救われました。

第三章では打順について、第四章では戦術・作戦について、セイバーメトリクスの観点から解説を行いました。今回の講義で最も反響が大きかったところです。特に第三章ではMLBで活用されている打順シミュレーターを使い、「超優秀」「優秀」「平凡」の3種類の打者がいた場合、どのような順番で並べれば得点が入りやすいかを実演し、打順の仕組み、野球というゲームにおける打順の重要性を考えました。打順シミュレーターで最適化された打順を見せた際に、前のめりになる生徒の姿が非常に印象的でした。逆に最も悪い打順の組み方を見せた際には笑いも起こりました。このパートについては、以下のような感想をいただいています。

「今まで自分の中で自然に染みついた打順に対する考えが一気に変わった」
「具体的な数字で示されたので、作戦におけるリスクの大きさについてよく理解できた」
「1対1の勝負の重要性をあらためて知ることができた」


PICK UP!

新着情報