聖光学院は昨秋、県大会初戦で学法石川にコールド負けの屈辱を味わわされた。「夏こそは!」とシーズオフに心身ともに鍛え、監督の斎藤と横山から「いいチームに仕上がっていると思う」と頷かせていた矢先の中止だけに、彼らの失望を簡単には斟酌できない。
〝見えない敵〟に翻弄される今だからこそ、横山は指導者としての力が試されると言う。
「俺たちが生徒たちにどういうメッセージを伝えていくかが大事だし、世の中から問われていることだと思う」
スタートは、あの動画だった。
もちろん、野球部員たちは全員視聴した。夏の甲子園が中止になる前から、指導者たちのメッセージは伝わっている。
だから、横山はストレートに自分の想い、願いを選手に送ることができる。
「甲子園が全てじゃないけど、甲子園があったからこそ、ここまで頑張ってこられたんだよな。大会は中止になったけど、『目指せ甲子園!』って言えたらかっこいいよな。心のなかにある甲子園にたどり着くために、これから頑張っていこうな」
主将の内山連希に告げると、それは瞬く間に広がった。他の部活動の顧問から「内山が『心の甲子園を目指す』と言っていました」と教えられた時は、心から嬉しかった。
心のなかの甲子園。
それは、聖光学院のみならず、全国の高校球児が新たに目指す場所なのかもしれない。
はきはきと話していた横山の声に、温かみが帯びる。言葉は、親心に満ちていく。
「本気になれるのは、甲子園を愛しているんじゃなくて野球を愛しているからなんだよ。『いつから始めた?』と聞くと、だいたいチームの名前を挙げるだろうけど、本当はお父さんやお兄さんとか、家族とのキャッチボールが最初なんだよ。そこから、野球人っていうのは人格形成が始まっていると思うんだ。甲子園に行けなかったけど、甲子園だけが全てじゃない。その価値観っていうのは、これから試されるんじゃないかな」
動画は、最後にこう結ばれている。
<親愛なる君たちへ>
そのメッセージは、聖光学院から野球を愛する全ての者に届けられる。(文・写真:田口元義)
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