学校・チーム

【聖光学院】野球を愛しているから目指す「心のなかの甲子園」

2020.5.26

活字と写真と音楽がシンクロする。

 <待ちわびた春。花を咲かせるべく冬を過ごした。なのに…休校になってしまった…>

 2分52秒の短い動画がYouTubeに公開されたのは、4月21日だった。

 それは、聖光学院の野球部部長である横山博英が、新型コロナウイルスの感染拡大で活動を自粛している野球部員に向けたメッセージである。前日に学校公式チャンネルを開設し、最初にアップされたのがこの動画だった。

 <でも、俺たちはあきらめない!>

 そこには、強く、熱い言霊が宿っている。

 電話取材に応じてくれた横山が、自らの手で作成した動画への想いを語る。
「第一に『生徒らを元気づけたい!』という気持ちだよね。『お前ら、絶対に負けるなよ!』と伝えたかった。動画をアップした頃は学校も臨時休校が続いていたし、野球部も活動を自粛して寮を解散した直後だったから、精神力、技術、体力が落ちてしまうことを『コロナのせいにするんじゃないぞ!』と。困難とか不都合な出来事が起きた時こそ、人間の本質が出る。こういう情勢だからこそ、強くなるための試練だと思って、決意を持って日々を過ごしてもらいたいと」

 春夏合わせて21回の甲子園出場。夏に至っては戦後最長の13年連続と連覇を継続する聖光学院において、横山は野球部の部長と下級生主体のBチームの監督を務め、斎藤智也監督の右腕として1998年から苦楽をともにする。2000年代初頭には、当時では珍しかったBチームによる練習試合を敢行し、東北地区の有志を募ってリーグ戦を実現するなど、高校野球の現場を常に改革。指揮官の斎藤からも全幅の信頼を置かれている。

 その横山が、大会での敗北など選手たちが厳しい現実を突きつけられた際に、必ず伝えている訓示がある。
「物事は必然のもとに成り立っている」

 動画ではまさに、それを選手に再確認させ、克己させようと促していたのである。

 3月から臨時休校していた聖光学院の登校が再開したのは、福島県の緊急事態宣言が解除されて5日後の19日。同じ日に野球部の全体練習も復活した。

 光は、少しずつ見え始めていたはずだった。

 翌20日。「夏の甲子園」と呼ばれる全国高校野球選手権大会、代表校を決める地方予選の中止が決まった。

 聖光学院としては、スポーツ紙で「中止へ」と第一報が出された15日の時点で、斎藤と横山は部員たちに「覚悟を決めよう」と、選手たちにメッセージを伝えていた。

 だからか、実際に甲子園、その挑戦権を奪われたことが現実となっても、部員たちに涙はなく、気丈に振舞っていたという。

 ただ、横山は彼らの琴線を知る。自身が常に伝える訓示を体現するかの如く前を向く選手たちの、心の叫びを代弁した。
「甲子園が全てじゃない。確かにそうだけど、生徒らにとっては甲子園が全てだったんだよ。高校を卒業して大学、社会人、プロで野球を続ける選手だっているけど、全国ほとんどの球児は高校で辞めると思うんだ。そう考えると、高校3年生は野球人生の晩年に差し掛かっているわけだ。だからこそ、球児は多くのものを犠牲にしてでも野球に打ち込んで、本気で甲子園を目指すんだよ。緊急事態宣言が解除されて、休校も解けて全体練習もできるようになった。コロナウイルスの感染者も日に日に減って収束してきているのに、甲子園は中止。他の競技の大会はもっと前に中止になっているけど、生徒らには残酷すぎるし、気持ちを推し量ることなんてできない」


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