乙訓には決して中学時代に実績を残した選手が集まっている訳ではない。中学時代に名を馳せた選手はほとんどが私学の強豪校に進学するが、それでも「公立高で甲子園を目指すなら乙訓」と近年の府内での戦いぶりを見て、入学を志す中学生も増えている。
市川靖久監督は、入学した1年生を早々に試合で起用することは少ない。まずは高校野球に見合った体作りを重視し、トレーナーの下でじっくりと体作りに時間を充てる。「大きくするのではなく、柔軟性を高めるため」と体幹を鍛えるトレーニングが中心で、まずはしっかりと土台作りに専念させ「ケガをしない体作り」を念頭に置いている。
入学した1年生はまずは柔軟性のトレーニングを行う。ウエイトトレーニングもメニューにはあるが、まずは高校野球についていくための形を作らなければならないため、個々に見合ったメニューを専門のトレーナーによるレクチャーの中でこなしていく。やみくもに体重を増やすのではなく、まずは形を重視。中には急激に背が伸びている子もおり「そんな子に無理にトレーニングを課すとケガをする原因になりますので、それぞれの成長段階も踏まえて最善の方法を取るようにしています。やり方には順番がありますので」と市川監督。
常に自分の体を見ながら腹筋をするなど、地道な努力も必要だ。そういう積み重ねから自分の体の使い方も自然と身につく。「自分の体を知って動けるようになればパフォーマンスは随分変わってきますし、ケガをしにくくなるのは確か。外傷は別として、疲労が溜まってとか違和感がというケガはほとんどないと思います」と市川監督は断言する。
「ケガをしない体作り」に加えてもうひとつ重視しているのは選手のキャラクター。
「いくらセンスがあっても、暗くて周りを巻き込む力がない子は、勝負どころでも結果が出ない傾向があります。素直に話ができる子は伸びる傾向が高いですね」。
さらに市川監督が試合を見ていて気になる点もある。
「野手の子の場合ですが、守るたびに自分のグローブを見る子です。自分に素直ではなく、例えばミスをしてもグローブに問題があると思ってしまっている。グラウンドコンディションが良くなければ土のせいにしてしまうこともある。矢印が自分に向いていない証拠なんです」。
自分に矢印を向ける——
つまり、常に自分がどうあるべきかを考えられる子は、周囲をきちんと見られているとも言える。そういう目配りができる子は身だしなみもきちんとしているのは“定説”だ。市川監督は選手のキャラクターがユニフォームの着こなしで分かるという。「走っている姿とか何気ない姿を見るだけで、どれだけプレーできているのかも判断できます。ユニフォームをきちんと着ているかどうかは性格も出ます」。社会に出ればスーツの着こなしで相手の印象は変わる。“まずは身だしなみ”は野球の中でも基本的なことだ。