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【石岡一】甲子園初出場!公立高が強豪私学と互角に戦う術(前編)

2019.6.11

今春のセンバツでは強豪盛岡大付(岩手)に対し、初出場ながら臆することなく戦った石岡一。野球部の4割が実習で野菜の栽培などを学ぶ園芸科、剪定(せんてい)技術などを学ぶ造園科の生徒だ。部員全員がグラウンドに揃いにくいというハンデを乗り越え、今回の21世紀枠に選出された。センバツの熱気冷め止まぬ、5月のグラウンドを訪れた。


センバツ出場を叶えた、ごくごく普通の県立高

創部初となるセンバツの戦いでは延長戦の末敗れはしたものの、県立高である石岡一が強豪私学と互角に戦う姿は多くの人に感動を与えたに違いない。最速147キロを誇るエース岩本大地に注目が集まりがちだが、楽しみな2年生も多くチーム全体のレベルは高い。2015年、2016年と2年連続で関東大会に出場し、前任の波崎柳川では県大会準優勝を経験した川井政平監督が赴任後、部は順調に成長し今春のセンバツ出場を成し遂げた。

他部活と共有ではないものの、グラウンドはけっして広いとは言えず、3学年合わせて75人の選手たちはハンドボール場や陸上競技場、さらには体育館の端の空いたスペースを利用し、散り散りに分かれて練習を行う。科が違うため、授業の終了時間もバラバラ。選手全員で声を出しアップを始めるといった光景も石岡一では見られない。

「園芸科と造園科は6時間授業が多いですが、その分実習が多いんです。普通科は基本的に7時間授業なので平日の練習は2時間半から3時間。室内練習場もないですし、雨が降ると屋根のあるブルペンや体育館の下で体幹トレーニング程度しかできませんよ」と林健一郎部長が教えてくれた。

基本的には川井監督と林部長の2人で指導を行うが、取材当日は川井監督が会議で忙しく、グラウンドに着いたのは18時頃であった。それでも、選手たちは自分たちでメニューを決め、ローテーションで学校の敷地内を効率よく使う。これが石岡一の昔からのスタイルであり、21世紀枠に選出された大きな理由の一つでもある。



選手の長所を伸ばす育成システム

今春の関東大会に出場した藤代や、水戸商などいわゆる「古豪」と呼ばれる野球部ではない。川井監督が2006年に就任し、農業のように何もない畑を丁寧に耕し、種をまき我慢強く育て上げてきた。川井監督は県立高としての戦い方についてこう話す。

「選手の長所を伸ばすのが私の指導スタイルです。強豪私学に対し個々のポテンシャルで勝負しても勝ち目は薄いでしょう。走りが良い選手であれば走りを伸ばし、守りが良い選手なら守りを伸ばす。例え1人の力で勝てなくても、2、3人の力が集まれば勝てることもあります。そのためにも熾烈な競争を与え、試合の局面では迷わず選手交代ができるよう臨機応変な育成・采配を心がけています」。

センバツでスタメン出場した選手でも、調子次第では春の県大会のメンバーから外すのが川井監督流だ。多くの選手を見極めるため、練習メニューは基本的に全員同じ。現に取材当日は身体の出来上がっていない1年生を除き、全員がバッティング練習を行い、個々で監督から指導を受ける場面があった。

「ただ、激しい競争を覚悟で入部する強豪校の選手とうちの選手は違います。軟式経験者も多いですし、岩本を除けばごくごく普通の県立高の選手です。『石岡一ならもしかしたらレギュラーになれるかも……』そんな思惑を持って入部する選手だっているわけです(笑)。そういった選手にいきなりハードルの高い練習をさせても無理があります。やる気を失わせないよう、ゆっくりと階段を昇らせて成長させることも大事です。選手たちの気質や特徴に合った育成システムを作り上げれば県立高でも十分に戦えると私は思います」。


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