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「野球の楽しさを多くの人に伝えたい」長野県に集まった3300人の笑顔(前篇)

2017.12.5

11月26日に長野県オリンピックスタジアムであるイベントが行われた。
「野球をやっている子も、やっていない子も誰でも参加出来る」、「固定されたプログラムはなく、自由に来て、自由に帰れる」など、参加の敷居を限りなく下げ、子ども達が野球に触れ合う機会を作ろうと企画された『第1回 北信野球の日』というイベント。未就学児・小学生向けの野球イベントだ。

会場にはキャッチボールやティーバッティング、スピードガン、ストラックアウトなど野球の「捕る・投げる・打つ」を楽しめるゲームコーナーが用意され、フリースペースではボールプールや遊具が置かれるなど、野球をやっている子はもちろん、小さい幼児たちも寝転がって遊べるなど、普段は入れないオリンピックスタジアムの人工芝で多くの子ども達が体を動かし、思いっきり遊べる1日となった。

このイベントは、長野県の高校・中学校・小学校の先生方が中心となり協力し、約半年の企画・準備を経て立ち上げた今回が初めての試みで、事前の予想をはるかに上回る、幼児・子どもが2100人、大人が1200人の合計3300人が来場した。

「普段、野球をやりたくても何かの理由でできない子どもや、ボールを握ったことがない子ども達に野球に触れる機会を作って、思う存分楽しんでもらいたい」

そう話してくれたのは、このイベントの実行委員長である長野西高校野球班の大槻寛監督。実際に会場では野球をやったことがない子ども達が慣れない手つきでボールを捕ったり、親子で投げあったりするなど、『野球』と触れ合う微笑ましい光景があちらこちらで見られた。

長野県全体の野球人口が7年前と比べて2/3に減少

この『北信野球の日』はどのようにして立ち上がったのか?そして、参加者、また運営に参加した中高生球児たちに何を残したのか?大槻監督に話を聞いた。

「まずこのイベントが立ち上がった経緯をお話しすると、2017年2月に北信ベースボールサミットという長野県北信地区の高校野球・中学野球・学童野球の指導者が集まる場を立ち上げまして、約250名の指導者の方たちが一堂に顔を合わせたのがきっかけでした。野球をやる子ども達が少なくなっているという状況を皆さんで共有して、自分たちに何かできないか?ということで、半ばその場の勢いでオリンピックスタジアムを押さえて『何かやろうぜ!』と、今回のイベントがスタートしました」

全国的に野球人口減少が叫ばれる中、長野県も例外ではなく、深刻な野球人口の減少が続いている。大槻監督にも大きなターニングポイントがあった。それは他でもない、彼が日々触れ合ってきた教え子たちの存在だという。

「私自身14年教員をやらせてもらっていますが、おかげさまで最近たくさんの教え子たちが将来教員になりたい、と言ってくれるようになりました。特に私から教員になりなさい、なんてことは言ったことがないのですが、普段の生活や野球部の活動を通して教員の素晴らしさを生徒達自身が感じてくれて、そう思ってくれているので大変嬉しく思っています。一方で、その教え子達が教員免許を取得して、中学や高校の現場に出たときに、『野球部員が少人数しか集まらない』、『試合ができない』というケースを少しでもなくしてあげたいな、この現状を変えないといけないなと強く思うようになりました」

また、イベントを実施する上で欠かせない運営者である指導者の方達、特に高校野球と中学野球の指導者の方達をいかに連携させ、心を一つにするかは重要なポイントだったという。

「すごく大きかったのは、篠ノ井東中学校の野球部顧問で長野県の中体連北信ブロック軟式野球専門委員長を務める松坂先生の存在です。すごく熱心に取り組まれている方で、『高校と中学、共に仲良くやっていこうよ』と快く言って下さり、実行委員会がスタートできました。」

長野県青少年野球協議会が発表しているデータによると、2010年度に1万6000人ほどいた小中高の野球人口が、2016年度までに約1万1200人まで減少している。特に減少傾向が著しいのが中学の軟式野球だ。2010年度は5000人ほどいた軟式野球人口が7年で3000人まで減少。小学校の学童野球も5200人から2800人に減少と改善の兆しが全く見えないのが現状だ。


「先ほど話した、2月の『ベースボールサミット』を企画するときに、指導者の資質や指導技術の向上を目的とした指導者研修という形ではなく、どうしたら子ども達が野球を始めてくれるか?生徒たちを上手くしようという観点は一切なくして、野球をやる子をまず増やすということに重点を置きませんか?と松坂先生とも話し合い、今回のイベントの方向性が固まりました」と大槻監督は振り返る。

実行委員長の上田西高校大槻監督
実行委員長の長野西高校大槻監督(写真左)

高校野球の指導者として、中学野球や学童野球の現状を知りながら、指をくわえて生徒たちを待っていても始まらない。長野県の野球界を活性化させるために、高校、中学、少年野球それぞれのカテゴリーの指導者たちが手を取り合う画期的なイベントがここに生まれたのだった。

後篇へ続きます

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