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【熊本工業】「九州の盟主」が大切にする基礎・基本

2017.7.4

九州地区最多となる春夏通算41回の甲子園出場と59回の九州大会出場。甲子園では準優勝が3度あり、九州勢最多の通算45勝(41敗)を挙げているのがご存知、熊本工だ。また、プロ野球選手の輩出数64人も九州では断トツの数字で、川上哲治(元巨人)、前田智徳(広島)といった神格化された打者も同校OB。今年は2000本安打を達成した荒木雅博(中日)もこれに名を連ねた。甲子園の優勝がないという事実が不思議で仕方がないほど、熊本工が高校球界に残してきた実績は群を抜いているのである。

そんな九州を代表する名門を率いるのは2014年秋に就任した安田健吾監督だ。安田監督は現在39歳で、もちろん熊本工のOBだ。現役時代は同学年の荒木と二遊間を組み、94年春、95年春と2度の甲子園に出場した実績を持つ。今春は最速149キロ右腕の山口翔を擁し、監督として初の聖地指揮を執った。

いわば“生まれも育ちも”熊本工の安田監督が大事にしているのが「基礎・基本」。ひたすら基礎の反復によって、秀岳館に奪われつつある熊本の覇権を取り戻そうと練習に取り組んでいる。

取材日はあいにくの雨で通常メニューが組めず練習は限られてしまったが、練習に対する安田監督の考えをじっくりと伺う時間を得られたのは不幸中の幸い。ここで、その一端を紹介していこう。


「不満足感」が生む熊工スタイル

「練習に関してはいろんなことを試しながらやってきました。ただ、現コーチ陣と話をして、やはり基本を疎かにしてはいけないなという結論に至ったのです。調子を崩した時に、立ち返るのが原点。戻る原点がなければ、話になりませんから。また、それを選手たちが自主的に求めるようになれば理想的なんですけどね」(安田監督)

最初に熊本工が行なう通常練習の流れをおさらいしておく。まずはウォーミングアップを行ないキャッチボールへ。熊本工のキャッチボールはアンダースローや下半身を前後に大きく開いて行なう開脚スロー、投手の牽制のように体を捻りながら行なう反転スローなど複数のバリエーションで行なっている。

次がボール回しだ。ここでは(1)通常のルーティン回し(2)上げられたトスを受けてのランニングスロー(3)挟殺プレーという3種類のボール回しをそれぞれ5分間ずつ行なっている。

残念ながら取材日は悪天候でボール回しを行なっていないが、あらためて説明すると次のようになる。(1)はシートノック前に行なう通常のルーティン。(3)は走者を想定しての挟殺回しなので説明は割愛させてもらう。ここでは(2)のランニングスローについて説明していこう。

用いるボールは、たったの1球。(1)の終了時点でボールが本塁にあった場合、三塁にいた選手【A】が本塁方向にダッシュし、本塁の選手【B】がトスを上げる。【A】はこれを投本間で捕球し、そのまま駆けながら一塁の選手【C】にランニングスローをする。トスを上げた瞬間に一塁方向にスタートしている【B】は、一塁手前でCからボールを受けて二塁方向へダッシュ。そして【C】は【B】の後を追っていく……という具合である。

(2)と(3)でボールを持った選手たちが絶えず塁間を走っているため、熊本工の練習に足を運ぶと、まずボール回しの激しさに目を奪われるはずだ。安田監督は言う。

「野球の基本はキャッチボール。キャッチボールからボール回しまでを一連の動きの中で、いかなる状況でも正確性が求められる送球の基礎を固めているのです」

このあと、練習は内外野に分かれて部門別の基礎練習に入っていく。内野手であればゴロ捕り、二遊間のみで送球やベースワークなどの併殺練習、外野手であればフライの際の後退、ネットスローでの送球精度アップというように。こうして「足を使う、捕る、投げる」といった基本動作の確認を入念に行なった後に、走者を置いた実戦形式のシートノックに移行していくのである。

「ウチは伝統校とはいっても、昔から継承されている独特の練習があるわけではありません。ただ、部門別に基礎や基本を確認するやり方については、私が現役時代に荒木たちと取り組んできた自主練習をイメージしたものです。同期だけでなく、まわりにはプロ入りするような先輩もたくさんいたので、私たちは常に上手な選手の物まねをしながら学んでいきました。強いて言うなら、それが“熊工スタイル”なのです。『自分たちで考えて動く』ということが当たり前の中で育ってきただけに、選手たちに“考える余地”と言いますか“余白を残していくこと”も重要なのかな、と思うのです」(安田監督)

基礎・基本に重点を置いた全体練習が終了した後に「ここが足りない」、「もっと●●がしたかった」という不満足感が選手たちを動かし、練習の主体性を生む。それが継承されて、熊本工は他を圧倒する伝統力を紡いできた。高校時代に誰よりも「熊工スタイル」を貫いてきた荒木がプロ野球史上48人目の2000本安打を達成した時、安田監督はあらためて「基礎・基本を応用した自主練習」の重要性を痛感したのだという。(取材・写真:加来慶祐)

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