史上初の大阪勢対決となった選抜大会決勝、その舞台に進んだのは大阪桐蔭と履正社だった。結果は大阪桐蔭が8-3で勝利し、5年ぶりの優勝を飾った。あと一歩及ばなかった履正社にとっては、これが新チーム結成後、公式戦では2度目の敗戦。昨秋の神宮大会を制し日本一の座をつかんでいるが、実は大阪大会決勝でも黒星を喫している。しかもスコアは3-10。大会途中に国体出場も重なるという難しい日程の中、準決勝では大阪桐蔭に勝利したがその翌日、上宮太子に大差で敗れた。履正社は投打にプロ注目選手を擁し、昨年の春季大会初戦から秋季大会準決勝まで府内23連勝。負け知らずの1年を送っており、決勝を前に誰の目にも優位は明らかだった。
そんな履正社を倒し、戦前の下馬評を覆し頂点に立った上宮太子とはどのようなチームで、どのような練習を行っているのだろうか。春季大会期間、真っ只中のグラウンドで日野利久監督に話を伺った。
◆目 次◆
甲子園を目指すためにたどり着いた方針
「選抜決勝はビデオで何度も観ました。やっぱり秋より両方とも全然別のチームというか、大阪桐蔭は特に力つけてたし、あそこに勝つにはいろんなこと考えてやらんと。普通に思い切ってやれ、だけでは絶対勝たれへんと思うんでね。でも絶対(夏の甲子園に)出れるチャンスはあるはずなんでね」
上宮太子は私立だが推薦枠が無い。公立でも140キロオーバーの投手が毎年のように現れる大阪において、入学時の選手のレベルは決して恵まれているわけではない。そんなチームが甲子園を目指すためにたどり着いた方針は練習量で鍛えることだった。1年365日中、1日オフは元日のみ。オフシーズンの練習は朝7時半から始まった。
「練習量と言ってもそんな大した練習しないんで。でも休みなしで毎日子供らと顔合わせて、というところで。対話はすごくやってる方やと思いますね。締め付けるだけじゃ絶対あかんと思います。キャプテンにも『3年生になったら月曜は休んだらどうや。授業で遅くなるし体のケアに充てたらいい。1、2年生はティーバッティングしたりランニングしとくから』と言ったら『せっかくここまで来たから休みなしでやりたいです』と言ってきました」
意識の高い新入部員
選手側の意識も高い。なぜならこの環境を理解した上で入部してくるからだ。さらに今年の場合は昨秋の大阪優勝という結果が好影響を与えている。
「新入生は19人しか入ってないんですけど、目標をちゃんと持った子が多くて。優勝したおかげっていうのは絶対あってやる気のある子が来たなぁと思いますね。今までの子はやる気にさせるまでに時間かかったんですが、練習参加から最初の10日間だけは絶対どこの新1年生にも負けてないなぁというぐらいええ練習をきびきびしてましたね」
入学してしばらくは1年生はトレーニングがメニューの中心。グラウンドで上級生がボールを使った練習を行っている間、ネットを隔てたスペースで腹筋やスクワットなど器具を使わない基礎的なトレーニングを何種類もこなす。素振りではスイングの形よりもまずは力を込めたフルスイング。ここでも逞しさを求める。週末には1年生対2年生の紅白戦を行なったりするが、まずは体作りから始まる。投手陣は連日ブルペンで投げ込み。最初は50球だった球数もやがて100球は当たり前になる。
「やっぱりボール投げないと。ウエイトトレーニンングやランニングメニューもやってますけど、投げるコツとかはわからないんで」
毎日毎日の積み重ね
グラウンドは上宮と共有のため上宮太子が平日に使えるのは週3日。その時にはシートバッティングを欠かさない。さらに野手陣はランニングや腕立て、腹筋など単純な補強トレーニング、投手陣は投げ込みとインターバル形式のポール間走、サーキットトレーニングなどのメニューをこなす。
「毎日毎日の積み重ねやと思ってるんで」日野監督が何気なくこぼしたその一言に上宮太子らしさが凝縮されていた。最新鋭のトレーニング機器があるわけでも、高度なサインプレーに時間を割くわけでもない。元日以外は実戦形式のシートバッティングと自体重を使った基礎的なトレーニング、ただひたすらこの繰り返し。名門校からは声のかからなかった選手達がこの日々を過ごすことで、中学時代には雲の上の存在だった有名選手と互角以上に戦えるまでに成長する。
逞しくなった2年生
春休みには、「良い子は多いが迫力に欠ける」という2年生が3泊4日の日程で四国合宿を敢行した。野球経験のある厳しい館長がいる旅館では、強豪校との対戦以外でも心身を追い込んだ。バスを降りるとまず気をつけの姿勢、あいさつの声量を指導され、連日、起床は朝5時。朝食の前に往復で1時間弱かかる金比羅山を登ることから1日が始まった。
夕方、練習試合を終えて旅館に戻るとユニフォームを洗濯している間に、再び山登り。夕食にありつけるのはその後になる。もちろん食事もトレーニングの一環、ご飯の量は朝も夜も山盛りだ。お菓子、テレビ、外出は一切禁止というこのスポーツ合宿で生まれ変わったのが赤瀬修斗。逞しさを増しベンチ外からこの春、背番号20を勝ち取った。
打倒「二強」と甲子園出場
春季大会初戦は5回コールド発進。つながりのある打線は14点を奪い、エースの森田輝は参考記録ながらノーヒットノーランを達成。まずは順調なスタートを切った。ただ日野監督が掲げた、いやチームに課したハードルから見ればこれはまだまだ序の口だ。「春の大会も夏まで16連勝やと。16分の1やねんぞと。ここからまだまだ成長せなあかんのですけど、この子らなりには十分やってくれてるかな」
4月中旬時点でのチーム力には及第点以上の評価をしながら視線の先にあるのはさらに高い頂。組み合わせの関係上、上宮太子がこの春に大阪桐蔭、履正社と戦うとすれば決勝となる。打倒「二強」と甲子園出場、間違いなく射程圏に捉えている。(取材・写真:小中翔太)
日野利久(ひのとしひさ)
1968年7月3日生まれ。上宮高校から龍谷大学に進み内野手として活躍。上宮太子高校野球部創部となった1998年からコーチを務め、2011年から指揮を執る。昨秋には亀井義行(巨人)を擁した1999年以来17年ぶりとなる2度目の大阪優勝を飾った。この夏、監督としては初の甲子園出場を目指す。