プロ通算403本塁打の実績を持つ山﨑武司さん。球史に残るホームランアーチストはバッティングにおいて最も重要なのは軸足の“タメ”だと言う。だが、それに気づいたのはなんとプロ入り20年を経てからだったそうだ。39歳で二冠王に輝いた打撃の達人に究極の軸足理論を聞いた。
こんな球児は動画をチェック!
- 上体が前に突っ込みやすい
- 身体の開きが早い
- 下半身の体重移動がスムーズにできない
山﨑武司の軸足の使い方
【ポイント①】
軸足の親指に力を入れながらタメを作り、上半身が前に突っ込まないように優しくステップ。
【ポイント②】
少し後ろに上半身を戻すイメージでスイング。軸足の親指を中心に身体を回転させることが大切
【ポイント③】
軸足を90度回転させると体勢が崩れてしまうので40度くらいのところで止めると下半身が安定する。
身体の内側を意識し、軸足は回転しすぎない
重要なのがまず上半身が前に突っ込まないこと。そのためには軸足に乗せた体重を前の足に移動させてスイングするときに、少し後ろに上半身を戻すようにすることが必要になる。その動きが大きくなり過ぎないようにすることがポイント。
意識するのは身体の内側。軸足に体重を乗せるときには、まず足の親指に力を入れると体重が逃げずに体勢が安定することになる。ステップして打ちに行くときには軸足を回して身体を回転させるが、その回し方も重要だ。軸足を回すとき90度回転させてしまう人が多いが、そうするとひざが曲がりすぎて体勢が崩れやすくなってしまう。軸足の回転を40度くらいにおさえるイメージだと下半身も安定したままスムーズに回転することができるのだ。
軸足の“ タメ” が対応力を生み出す
身体の内側に力を入れて回転するイメージで打つ
軸足の使い方はバッティングにおいて一番重要だと思っています。プロで27年プレーしましたが、恥ずかしながらそれに気がついたのは20年経ってから。それまでは本能に任せて、ボールを打っていました。でも、年齢を重ねると瞬発力やパワーが落ちてくる。それで軸足の使い方を真剣に考え、30代後半で復活できました。
ボールを遠くに飛ばすには、右打者なら右足から左足に体重を移動させて打たないといけません。ですが、ピッチャーは打者のタイミングを外そうとする。さまざまなボールに対応するにはやはり軸足の“タメ”が生命線となります。まず、軸足に体重を乗せて前の足に重心を移動させていく、そして打ちにいくとき軸足に少し体重を戻して「回転」するようなイメージで打つ。軸足にあった体重を全部前足に移してはダメです。回転の力を上手く使えるようになると、腕の力も自然と抜けます。昔は思い切り振っていましたが、楽天の頃は軽く振ってホームランを量産しました。
軸足のタメを作るときに重要なのが身体の内側の力。軸足に体重を乗せろというと、多くの人が足の外側に乗せるんですよ。それだと前に体重を移動しようとしたとき、すぐ崩れてしまいます。そうならないためには軸足の親指に力を入れるんです。そしてふくらはぎと太もももの内側に力を入れ、ステップしても完全な前足体重にならないよう、軸足にも重心を残します。それが軸足のタメができているという状態です。
軸足に体重を残し変化するボールに対応しよう
ボールを飛ばすのは押す力ではなく、身体の回転力を使う必要があります。上半身が前に行くと身体を回転させることができず、戻る動きが大きくなります。この動きが大きすぎるとタイムラグが生じてボールに遅れて打球が詰まってしまいます。特に速いボールを打とうとすると、振り負けないようにと思って上半身が前に行ってしまいがちですね。
練習としてはトスされたボールを打ってまず形を作るということ。僕もよく肩口からストライクになるような緩いカーブをマシンで設定して打つ練習をしました。それでもどうしても前に突っ込んでしまう場合は、軸足のひざにゴムをつけて後ろから軽く引っ張ってみてください。そうすると軸足に必ず体重が残りますから、感覚を覚えるには最適な練習方法です。
軸足のタメがより重要だと感じることの一つに、昔と比べて野球が変わったという点が挙げられます。自分が若い頃は変化球といえばカーブ、スライダーが大半で、フォークを投げるピッチャーも少なかった。それが今ではほとんどのピッチャーが落ちるボールを投げます。それに加え、ツーシームやカットボールなど小さな変化のボールも増えてきた。ストレートと外に曲がるボールだけなら身体の前で打っていても対処できました。それが今では落ちるボールや内角に向かって変化してくるボールも多い。そうなると前で打っていては勝負になりません。現代野球で結果を残そうとするタメには軸足のタメを作るということは絶対に必要なことだと思います。
(取材・文=西尾典文 写真=廣瀬久哉)