トレーニング

元プロ野球チームの名トレーナー直伝 圧倒的にケガを少なくする身体の作り方(4)

2016.9.15

 投球傷害を予防するためには下半身の使い方が重要であるというくまはら接骨院の熊原稔院長。足や膝など体重がかかる関節(荷重関節)は繰り返し行われる投球動作に耐えられるだけの筋力や柔軟性が必要となってくる。日頃から筋力や柔軟性に重点を置いたトレーニングを行っていくことが、肩や肘の傷害を予防することにつながる。

 しかし普段から気をつけていても運動量が多すぎたり、疲労が蓄積したりすることで肩や肘に痛みを訴え、熊原氏のもとを訪ねる選手たちも多い。選手たちの症状やコンディションチェックから、どのような傾向が見られるのか、またどういったことに気をつけるべきかについて解説していただく。


◆痛みを抱えて訪れる選手をチェックする

  柔軟性が低下するとケガをしやすくなることを理解しておこう


 投球傷害は痛みのレベルにもよりますが、ある程度我慢しながら投げられることも多く、痛みでどうしようもなくなったときに初めて治療院に駆け込む選手も少なくありません。痛みを訴えてきた選手を治療するときは、まず身体の状態をチェックするようにします。始めに確認するのがタイトネス(硬さ)です。足関節であれば底背屈動作がきちんと出来るか、しゃがみ込んで踵が浮かない状態を保持できるかといったこと、膝関節であればしっかりと伸展できるか、股関節では内旋の可動域や仰向けの状態で足を90°近くまで上げられるかどうかといった大腿部後面(ハムストリングス)の柔軟性などを確認します。このとき柔軟性を見ながら同時に痛みや違和感がないかといったことも確認します。また投球フォームを見てみると筋力的に弱い部分がフォームを崩す原因となっていることが多いので、股関節周辺部や臀部などの筋力低下を想定し、治療のアプローチをすることになります。


◆ジュニア選手に多く見られる腰椎分離症

  腰椎分離症は少年期に起こりやすい。無理をしてプレーし続けないこと


 治療院にくる選手の中で特によく見られるのが腰椎分離症と診断されたケースです。腰が痛いといって来院する選手はとても多く、成長段階にある選手たちの発育・発達にも関わってくるため、適切な対応が求められます。いつから腰が痛くなったのか、どの程度我慢しながらプレーしていたのかにもよりますが、初期段階であれば腰椎を安定化させるコルセットを装着し、競技はしばらく中止して骨癒合を試みるようにします。ただ年齢が上がってくるにしたがって骨癒合はむずかしくなるため、中学三年生(15歳)くらいを一つの目安とし、骨癒合がむずかしいケースではすべり症への移行を予防しながら、リハビリテーションと治療で競技復帰を目指すこともしばしばです。

 こうした選手の多くは身体の柔軟性が低いという特徴がみられるのですが、この年代は特に骨の成長が著しく、骨に付着する筋肉は常に引っ張られて過緊張を強いられ、柔軟性が低下することが知られています。成長期の選手たちの身体的特徴を把握した上でのアプローチが求められますが、その一つの方法として股関節の「遊び」をつくることでもずいぶん変わると感じています。股関節の「遊び」がない状態でスイング動作を繰り返すと、物理的ストレスは一極に集中してしまいますが、股関節をゆるめて動きをしなやかにすることでうまく物理的ストレスを分散させ、腰椎への負担を軽減させることにつながると考えています。

 また腰椎分離症と並んでよく知られている腰痛に椎間板ヘルニアがあげられます。腰椎分離症とは違う病態ではありますが、腰椎分離症を発症して後に椎間板が変性したり、椎間板の中心にある髄角(ずいかく)があるべき位置から外に出てきてしまって神経にさわったりといったことは可能性としてあげられると思います。


◆コンディションの違いが自分でわかるようになる

  身体の変化にいち早く気づくためのセルフチェックを習慣にしよう


 普段から野球の体力レベルを上げるために練習だけではなく、体力トレーニングも行っていると思いますが、これには自重トレーニングだけでは不十分であり、ある程度の負荷を用いたトレーニングも並行して行いながら、筋肉の絶対量を増やしていくことが不可欠です。特にオフシーズンにしっかりトレーニングを行い、いわゆる「貯筋」をして、シーズン中は筋力レベルを維持するというスケジュールが一般的です。

 しかし練習量や強度によっては筋肉や神経への疲労が蓄積され、思うように自分の動きが出来ないという日もあるでしょう。こうしたときにはただやみくもに重い重量を扱うのではなく、スクワットでも強度を下げながら、自分で動かしたいところがキチンと動いているのかを確認することに注意を向けてほしいと思います。疲労がたまっていると感じるときに、いつもの動きが出来るのかどうかといったことや感覚のズレといったことを自分で把握できるようになることが理想的です。プロ野球選手でも投球動作で足を上げる動作を繰り返していると、そのうちだんだん足が上がらなくなってきてどっしりとした立ち位置が維持できなくなったり、すぐに前に突っ込んでしまったりといったことが見られるようになります。それを自分で感じられるかどうか。疲労に対する自分自身のセルフチェックというのをぜひ考えてほしいと思います。自分ではいつもどおり動いていると思っていても、疲労回復がうまく解消されていないと実はいつもどおりではなく、頭で考えていることと実際の体の動きにギャップがあると、そこからケガにつながってしまうこともあります。どのようなセルフチェック方法でもいいと思いますが、たとえば肩や肘などを押してみて痛いか痛くないかといったことを毎回チェックするだけでも、自分の変化に気づき感覚を研ぎ澄ますことが出来るのではないかと思います。


取材・構成:西村典子(東海大学硬式野球部アスレティックトレーナー)
監修:熊原稔

熊原実
(株)クマハラアスリートサポート代表、くまはら接骨院・院長
阪神タイガース・チームトレーナー(1992~2001年)、新庄剛志パーソナル・トレーナー(2001~2002年)、東北楽天ゴールデンイーグルス・コンディショニングディレクター(2010~2014年)等、長年にわたってプロ野球選手のトレーナーを務める。2013年にはWBC・侍ジャパン日本代表トレーナーとしても帯同。現在はトップアスリートからジュニアまで幅広い選手への治療・サポート活動を行う。日本体育協会公認アスレティックトレーナー。


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