「前田健太投手の動画を何度も見て参考にしています」
昨秋の関東大会で初優勝を飾り、2年連続3度目のセンバツ出場を確定づけた木更津総合高校。早川隆久と大澤翔のバッテリーを中心に、ロースコアの接戦をモノにし続けてきた。昨春のセンバツにも出場していて、経験値が高いバッテリーだ。
1月27日配布のフリーマガジン『Timely!』では、エース左腕・早川のインタビューを掲載している。どんな質問にも自分の言葉で答え、「1」訊くと、「5」にも「6」にも返ってくるようなクレバーな選手だ。
「非常に頭がいい。自分に何が足りないのか、そのために何をやればいいのかがわかっている選手」とは、五島卓道監督の言葉である。
武器は、出所が見づらいフォームから投じるキレのいいストレート。最速は142キロで、アベレージで130キロ台中盤。驚くようなスピードではないが、ストレート狙いのなかでも差し込まれるバッターが多い。
早川の「技」に迫ってみたい。
0から100の意識
憧れの投手は、今季からロサンゼルス・ドジャースでプレーする前田健太投手。思考やフォーム、プレートの使い方など、さまざまなところを取り入れている。
「何度も動画を見て、勉強しています。一番参考にしたところは、テイクバックで力をゼロにして、リリースの瞬間に100にすること。この意識を持つようになってから、ストレートのキレがよくなったように思います」
早川のフォームを見ると、テイクバックのときにボールを持った利き手がだらんと下がり、力が抜けているのがよくわかる。リリースで力を加えるためには、その前段階で力を抜くことが大事となる。
縫い目を押す
リリースは、投手によってさまざまな表現方法がある。「つぶす」と話す投手もいれば、「切る」という投手も。感覚的な話になるが、早川もまた興味深い表現を使っていた。
「成田高校で活躍した中川さん(中川諒/2010年夏甲子園ベスト4)は『つぶす』感覚だったのを雑誌で読んだりして、いろいろと試してみました。自分に合っていたのは、つぶすとか切るではなく、『押す』。リリースのときに、指先で縫い目を押して回転をかけるイメージを持っています」
実際に動作解析をしてみたら、指でボール押している瞬間はコンマ数秒の時間だろう。それでも、意識するのは「押す」というイメージ。これが、キレがいいと評価されるストレートにつながっているのかもしれない。
左目で見る
リリースで意識していることが、もうひとつ。それが、目の使い方だ。
「リリースの瞬間を、左目で見るようにしています。開きが早くなったり、リリースポイントが後ろになると、左目で見ることができない。左目で確認できるときは、調子がいいときです」
もう少し具体的にいえば、左目の左端で見ること。じつはこれ、花咲徳栄の左腕・高橋昂也も話していたワザでもある。
ストレートを使い分ける
ストレートのなかでも、特に自信を持っているのが右打者のインコースに投じるクロスファイアー。左腕の生命線ともいえるコースである。このとき、早川はちょっとした工夫を加えている。
「普段のストレートは、人差し指と中指の間を少し空けています。たまにですけど、インコースに強いボールを投げたいときは、人差し指と中指をくっつけて投げることもあります」
投手によるが、2本の指をくっつけたほうが球に回転を加えやすくなり、バックスピンの効いたフォーシームを投げやすい。今季から阪神タイガースに復帰した藤川球児投手は、この握りでストレートを投げている。
軸を保つ
ストレートには自信を持つ一方で、課題となるのが変化球。ストレートに比べると、腕の振りが緩むことがある。本人も課題を自覚しており、ストレートと同じように腕を振ることを意識している。
さらに、自身のフォームを分析するなかで見えてきたのが、上体の傾きの違い。「曲げたい」という意識が、フォームの違いにつながっていた。
「今は改善されてきていますが、変化球を投げにいくときに、上体が前傾になって、軸が倒れてしまう課題がありました。ストレートを投げるときと比べると、軸が寝ている。曲げたい意識が強かったのが原因だと思います」
腕の振りが緩んでいたのも、ここに原因があったと考えている。
爪のケアを怠らない
最後にケアの話。
投手の命ともいえる爪は、爪切りを使わずに、爪ヤスリでケアをしているという。ここまでならよくある話だが、早川はもうひとつ手間をかけている。
「ヤスリで整えたあとは、女性が行くようなネイルサロンに行って、爪をコーティングしてもらっています。人差し指と中指の2本だけですけど。だいたい、2~3週間に1回のペース。しっかりとケアしてもらうことで、爪を気にしないで投げられるようになりました」
1本1000円ちょっとするそうだが、自分のピッチング、そして将来のためにも、今からケアに力を入れている。
背番号10を着けてのぞんだ昨年のセンバツでは、2試合に登板して、6イニングを1安打6四球1失点。失点こそ少なかったが、四球の多さが目立ち、「初めての甲子園というのもあって、緊張してしまった」と、悔しさをのぞかせる。
今年は最上級生でエースとして迎える甲子園。さまざまな舞台を経験し、精神面でも動じなくなった。2回目の聖地でどんなプレーを見せるか。センバツでのピッチングに要注目だ。
PROFILE
はやかわたかひさ/1998年7月6日生まれ。1年秋からメンバー入り。最速142キロのストレートを軸に、スライダー、カーブ、チェンジアップを操る。得意教科は英語。