ちょっとマイナーな「大学準硬式野球」の魅力を、実際に準硬式に携わる大学生が紹介する本連載。第4回目は医学を学びながら野球をしている自治医科大学準硬式野球部。医学生と野球はどのような関係で結びついているのか、なぜ医大生が準硬式野球を選んだのか。関東連盟の学生委員である山田力也(青山学院大)くんがリポートする。
自治医大と準硬式に意外な共通点が!?
自治医科大学は医学系の私立大学で9年間指定された公立病院で医療を提供すると学費が免除されるという特徴を持つ大学だ。医療に対する熱意が強い学生が集まる自治医科大学で準硬式野球を選択する意味について大坂睦晶(3年・奈良)と笹倉聖也(3年・八戸)に話を聞いた。医学生がなぜ準硬式野球?
医学生に対してのイメージ通り、自治医科大学での勉強はなかなか大変だという。そんな中で準硬式野球を選択した理由について大坂は「野球ができる団体が準硬式野球しかありません。ソフトボール部はありますが、初心者メインでもう少し本格的にやりたかった自分にとっては準硬式野球がぴったりでした」と話す。また自治医科大学のシステムも医学生を準硬式野球へ導く手助けをしている。自治医科大学は基本的に全寮制ということもあり、何らかの部活に入る学生が多いのだ。準硬式野球部の部員たちは授業後寮に戻り、寮の目に前にあるグラウンドで定期的に汗を流している。
医学生と侮ることなかれ
準硬式野球は筑波大医学(北関東)や東海大医学(新関東)など、医歯薬系大学の参加も多い。勉強をしながら野球を楽しみ、時には強い大学と対戦することもできる。そんな中で自治医科大学は力を発揮した。清瀬杯への出場が決定したのである。当時、大坂は1年生。シーズン途中から試合に出場するようになり清瀬杯の出場に貢献した。しかしながら清瀬杯自体は再試験の影響で出場ができなかったそうだ。医学生だからと言ってその実力を侮ってはいけない。彼らも高校野球で一生懸命野球をやってきて実力は確かなチームであるからだ。
特徴的な入試制度と学費免除制度
自治医科大学はユニークな入試制度をとっている。入試は都道府県で2〜3人の合格者を出すというシステムで、その難易度は都道府県によって変化する。
また、条件をクリアすることで学費が免除されるという特徴があり、その条件とは卒業後に指定病院等(僻地がメインになることが多い)で9年間勤務することである。僻地の勤務では地域唯一のドクターとして地元の人たちのありとあらゆる症状に向き合う。地域の人々の命を一人で守る状況になるためプレッシャーは相当なものだ。青森出身の笹倉聖也(3年・八戸)は地方で祖母を近くに見てきたことで僻地医療に興味を持ち自治医科大学に進学したという。
医大生も惹かれる準硬式野球の魅力とは?
準硬式野球との接し方は部員によって千差万別で、本気でやる人もいればエクササイズ程度に楽しむ人もいる。しかし、どのようなモチベーションであっても、全国大会に出るチャンスがあるのは大きな魅力だろう。勉強は忙しいけど今までやってきた野球でもう少し違った世界を見てみたい。そんな「かゆいところに手が届く野球」として存在することが準硬式野球の魅力なのだと思う。例えば準硬式では、高校野球に比べ束縛が少なく医学生のように勉強が大変など制限が多い人でも楽しむことができる。自治医大も、監督は現役の医師であるため練習に参加することが難しく、ほとんどのことを学生が決めている。今までにない新しい野球ができているそうだ。
「準硬式野球をやってよかった、もしやっていなければとても暇になっていました」と大坂は語ってくれたがそんな軽い気持ちで野球が出来て、大きな大会にも参加できることに準硬式の魅力があると考えている。
自治医大と準硬式野球の共有点
また、自治医大と準硬式野球の共通点を発見した。自治医大に学費が免除される制度があることは先に語った通りである。
この制度が、金銭面で医師になることを断念せざるを得ない学生たちを救っていることは想像に難くない。この自治医大の医師への道を多くの人に開こうとする寛大な姿勢は、準硬式野球にも共通するものがあると思う。準硬式であれば、金属バットも使用できるので木製バットのように折れることもなく、硬式より道具代がかかりにくい。時間的な制約も少ない。どんな事情があっても「野球をやりたい」という気持ちがあれば、そこを大事にしたいと考えているのだ。
コロナ禍で苦労する医大生の野球活動
コロナ禍において医学生は厳しい目でみられることが多く、アルバイトに制限がかかったり、外食すらできないという状況を我慢し続けているそうだ。「なんでこんなにも批判される怖さに怯えないといけないのだろう」と思うこともあるが、仕方ないと割り切っているという。このような影響は野球活動にも及ぶ。緊急事態宣言が明ければ活動はできるが対外試合はできない。そのため、2年ほど対外試合が出来ていない状態だ。医歯薬系の大学であっても思い切り野球を楽しめるプラットフォームを作りたいと考えている関東連盟としても、この話は胸が痛い。
いくら感染対策をしてもリスクはあるのは仕方ないことだ。我々ができることは感染対策を周知させることと実績を重ねること。その面で言うと今年の関東主管で開催された清瀬杯は1つ実績として挙げることができたと思う。しかしまだまだ越えなければならないハードルは多く、道のりは非常に過酷なものになりそうだ。一刻でも早く医歯薬系の大学が大会に参加できることを切に願うばかりだ。
今は我慢する時期だと言われてもう随分と長い時間が経った。大学生が一番我慢しているのに感染すると一番批判を受け、さらに我慢を強いられる悪循環のような状況に陥っている。医学生は我々の何倍の我慢をし、何倍も不安に苛まれているのだと思う。今は非常に辛い時期だとは思う。大会に出場することは依然厳しいが準硬式野球がささやかな“精神安定剤”になれば幸いだ。
関東地区に所属する70大学の選手たちが笑顔で制限なく白球を追える時が来ることを願わずにはいられない。
(写真・文/山田力也)