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男女それぞれの硬式野球部を甲子園へ導いた石原康司監督が考える「男子野球と女子野球の共通点」

2021.9.5

今大会最も注目された120キロ超え右腕の島野愛友利を擁し、史上初めて阪神甲子園球場で行われた女子硬式野球の試合を制した神戸弘陵学園女子硬式野球部。今春から同部を指導する1期生の川中ももコーチが高校3年生のときに成し遂げて以来、5年ぶり2度目の夏制覇だ。翌週にはユース大会も優勝し、1カ月のあいだに2度の全国制覇を達成した。そんな神戸弘陵を指揮する名将・石原康司監督にフォーカスを当てる。


女子硬式野球部監督として甲子園へ帰ってきた名将


はじめて甲子園での胴上げを経験した石原康司監督。

2014年の創部から同部を率いる石原康司監督を懐かしく感じた高校野球ファンもいるはず。約30年間にわたり同校男子硬式野球部でコーチと監督を歴任し、コーチ時代に3回、監督時代に2回、チームを聖地へ導いている名将だ。

男子硬式野球部監督としてはじめて甲子園に出場した1994年の第66回選抜大会では、1回戦で滝川西(北海道)との延長10回におよぶ接戦を8-7で制し、3回戦まで進出。4番に元メジャーリーガーで現在中日に在籍する福留孝介が鎮座し、元ロッテのサブローなどを擁したPL学園に1-10で敗退したが、春ベスト8の成績を残した。その後も1999年の第71回選抜大会へ出場し、女子硬式野球部の創部を機に男子硬式野球部の監督を勇退している。

教え子には、2014年にNPBの最多勝利と最高勝率のタイトルを獲得して翌年の開幕投手を務めた中日の山井大介や、1996年西武ドラフト1位の玉野宏昌、1997年西武ドラフト2位の佐藤友紀など計8人のプロ野球選手を輩出した。女子硬式野球部を指揮するようになって以降も女子プロ野球選手を複数名輩出している。


雨が降っても練習を中断することはなかった。

 「女子野球の扉が開いた」決勝後に感謝を語る


8月23日に阪神甲子園球場で開催され高校野球史に残る一戦になった神戸弘陵と高知中央の決勝。同時に1999年春以来22年ぶりに甲子園へ帰ってきた石原監督は、男女それぞれの硬式野球部を甲子園へ導いた初めての監督であり、女子硬式野球初の甲子園優勝監督になった。高知中央を4-0で下し、女子高校球児に支えられながら3回宙を舞った。

かねてより女子にも甲子園の地でプレーする楽しさを感じる機会を切望していた石原監督は、試合後に「感無量です。甲子園でやらせてもらうなんて夢のまた夢でした。女子野球の扉が開いた気がします」と語り、感謝の意を述べた。

大阪体育大学で一緒に汗を流した同級生であり初芝立命館(大阪)を2002年夏に大阪大会準優勝に導いた竹谷周久監督や、創志学園(岡山)の長沢宏行監督、日本航空石川(石川)の中村隆監督、龍谷大平安(京都)の原田英彦監督など、全国各地の男子強豪校の指揮官から石原監督のもとへ多くの祝福メッセージが届いたという。


集合写真撮影時にはエース・島野から優勝盾を差し出された。

男子監督経験が生きる女子野球指導


石原監督は男子硬式野球部を率いた経験が女子野球指導にも生きていると話す。技術指導はもちろんだが、力の差がある相手に勝つための戦略だ。

「男子の監督をしていたときは公立高校との試合によく苦しめられました。実力差がある私立に対して、いろんなことを緻密に考える野球をしてきます。女子の場合、学校数が少ないものあり練習試合の相手はボーイズなど中学生の男の子が多いです。力の差がある中学生の男の子は『私立』、女子野球部は『公立』です。どうやって男に勝つか、いろんな知恵や工夫をしながら戦うという点では、公立に苦しめられた経験が生かされています」。

実際に同校の練習試合の相手は中学男子のチームが多い。中学生とはいえ強豪チームだと、女子より打球速度や足が速く、パワーや体格差がある。それでも同校の選手たちは男子中学生に勝てるように試合を運び、堅守や対応力などを磨いている。


校舎横には女子硬式野球部専用のグラウンドを完備。

驚いた女子球児の覚悟 ユース大会で8度目の全国制覇


女子が野球なんてできるんだろうか―――――

同部を指導して8年目になるが、創部前は世間の女子野球を見たことがない人たちと同じ思いを抱いていたという。しかし選手集めに奔走しながら女子野球について勉強していくうちにイメージは崩れた。多くの女子球児が真剣に野球と向き合い、想像していたより高い技術力を備えていた。

「わたしも娘がいるのですが、女の子ならそばに置いておきたいと思うのが親です。硬球は怪我に繋がりますしね。だけど神戸弘陵で野球をやるために寮生活などを決断するその勇気や意志の強さに敬服します。強く言うのに対してへこたれずについてくるのも凄いです」。

同校内にある軟式野球部が使用していたグラウンドを女子硬式野球部専用へ作り変え、そこで球児たちは毎日泥だらけになりながら白球を追っている。選手が悔し涙を流すこともある厳しい指導は、選手たちの夢である全国制覇を実現させてあげるためのものだ。

8月23日に閉幕した甲子園での選手権大会決勝の余韻に浸る間もなく、8月26日には秋のユース大会が愛知県で開幕。新チームになった神戸弘陵は大会最多4度目の優勝を果たし、2冠を達成した。甲子園で優勝した唯一のチームである自信を得て、石原監督率いる新チームの更なる成長に期待だ。

(取材・文・写真/喜岡 桜)



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