学校・チーム

【夏密着】千葉聾学校/「もう一つの高校野球」、保護者たちの思い

2021.6.30

2016年に関東聾学校野球大会(軟式)で優勝を果たしている千葉聾学校。幼稚部から高等部までを併設する創立90年の伝統校だ。聴覚障害のある選手たちにとって野球部は人間形成に欠かせない時間でもある。保護者たちに野球で得た学び、喜びについて聞いた。


千葉聾学校野球部(以下チバロウ)の藤田正樹監督が、入部を決めた保護者に向けて必ず伝えていることがある。「絶対に1度は辞めたいと言う時が来ます。その時は必ずお子さんの背中を押してあげてください。そこを約束してください」。初心者で野球を始めると最初はどんどんうまくなり楽しくて仕方がない時期が続くが、必ず小さな壁にぶつかる日が来ると言う。「その時に親御さんは『そうだよね、大変だよね』ってへこんでしまうんです。でも、ここが頑張りどきなんです。ここを乗り越えたら、大人になっていく。卒業生の姿がいい見本になっています」と話す。
 

エラーをしたあと、悔しさをバネに立ち上がった選手がいる


藤田監督がある選手の話をしてくれた。

「ある選手が中学から野球を始めたんです。バットにボールがなかなか当たらなかった子でしたが毎試合応援に来てくれるお母さんの前で初めてヒットを打った時、親子で本当に感動したんですよね。でもそのあと、中学の大会で、その子がエラーをしてしまって、チームも負けてしまったんです。本人はすごく落ち込んでいたので、私は『このまま部活を続けられるかな……』と心配になりました。そしたら次の日、練習に来たんです。お母さんに聞いたら家で『悔しい。もっとうまくなりたい』って言ってたそうです。そこから1日も練習を休まなくなりました」。

この選手はスイミングも「寒いから」と言って休むような子どもだったそうだ。しかし野球は続けると言った。母は「家では多くを語りませんが、エラーをして、初めて悔しいという気持ちに気づいたんだと思います。自分の心で努力するようになりました。野球好きなの?って聞いたら『当たり前でしょ!』とサラリ。野球に出会えてよかったです」。

藤田監督は「チームのために頑張れるのが団体競技、野球の良さなんです」と力説した。


最後の夏となる3年生・大土主将の母 美穂さんは「みんなと一緒に輝いて欲しい」と言葉を贈った。

 ある選手の父は選手ミーティングを行う息子を遠目で見ながらつぶやいた。

「家ではわがまま放題だけど、藤田先生の言うことなら聞くんですよ。子どもたちを真剣に褒めてくれ、真剣に怒ってくれる監督さんです。気分が乗らないときも、野球だけは行くと言って自発的に動くようになりました。コロナで大会が中止になった先輩を見て、当たり前のことが当たり前じゃない、物事に感謝できるようにもなりました」。


体力強化の一つ、グラウンド横の階段上りはなかなかキツイ。10回を目標にダッシュ!

野球を通じた人間形成。部活動は、その大役を担っている。

もうすぐ夏の大会が始まる。チバロウの応援は、関東のなかでも「熱い」と評判だ。母たちがお手製のお守りを作り、大会前に手渡しをしてエールを贈る。取材の日は清涼飲料水のマイボトルにメッセージを書いて、思いを伝えた。「毎日練習、努力!」「仲間を信じて全力で頑張れ!」「やる気8割、実力2割!」。選手たちは親からのメッセージを照れずに受け取った。洗濯やお弁当でサポートしてきた保護者たちも夏はスタンドで選手たちと一緒に戦う。


ベンチから熱いまなざしを送る選手たち。手話を交えた思いのこもった“声援”は相手の心に届く。


保護者の応援も熱いチバロウ。夏の大会、保護者は選手と一体となって戦う!
 
(取材・文/樫本ゆき)


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