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【my focus】のびのび育つ、190センチの1年生アンダースローピッチャー

2020.12.19

アンダースローには、ロマンがある。上から投げ下ろされるオーバースローはもちろん、華やかで見ごたえがあるものだが、アンダースローピッチャーの「インテリっぽさ」や「技巧派っぽさ」には、これまた別の魅力があるのだ。私が初めて彼のアンダースローを見たときは、胸が高鳴った。一目惚れと言ってもいい。


秋はエースナンバーを背負った

身長190センチ、体重80キロ。恵まれた身体をめいっぱい使い、下から投げられる白球。市原中央高校野球部の1年生アンダースローピッチャー松平快聖(まつだいら・かいせい)が投げるその浮き上がる球に、バッターがこぞってのけぞる。球速は最速121キロと決して速いわけではないが、その長身を活かしたフォームから繰り出される白球はバッターの手元で急激に延び、高めに構えたキャッチャーミットにストンと収まる。

市原シニアに入った当初は、オーバースローで投げていたという松平。思うように結果が出ず、アンダースローに変えたところ、すぐに結果が出始め、三振が取れるようになった。そのまま市原中央高校に進学、今年の秋季大会では1年生にしてエースナンバーを着けている。

「地区予選では6回を投げて1失点、打撃でも活躍した。本人の頑張りもあったし、(背番号)1番を任せてみようと。結局県大会1回戦は11四死球。何とか勝ちましたが、2回戦は4回途中で6失点。すぐに代えました。まだまだです」

そう話すのは同校の滝田優司監督。結局その試合は敗れ、秋季千葉県大会は2回戦敗退に終わったものの、「もちろん松平を軸に据えられたら本望ですけどね」と今後への期待も添えた。

今はのびのびと育てる

プロ野球などを見ていればわかるように、オーバースローに比べアンダー・サイドスローピッチャーは人口が少ない。高校球児であっても、数少ない存在であることは間違いないだろう。滝田監督自身、アンダースローピッチャーを育てるということに難しさは感じていないのだろうか。そう問いかけると、「まったく」と即答。

「幸いなことに、彼はいい意味で素直すぎない。言ったことに対して、必要なことは受け入れるが、そうではないと思った部分は自分で考え、実行する力があります。僕たちはその力を活かせる環境を整える、ということだけ。オーバーのピッチャーと練習メニューも同じですし、アンダー独自の練習が必要なところは本人に任せています」

コーチ陣に話を振っても、「特別なことは何も言っていませんね」と笑う。今は基礎となる部分をつくってやる。フォームを改良したり、指のかけ方といった細かいことにこだわったりするのは、進学後か、さらに先か、そのときに指導を受けながらをやればいい。今はもっと遊ばせていい――。そんなのびのびとした環境で高校生活1年目を過ごしている松平に今の課題を聞くと、間髪入れずに「球速です」と返ってきた。

「得意のスライダーを活かすためにも、まずはまっすぐの力強さを強化したい。速い真っ直ぐで三振を取るか、詰まらせられるようにしたくて。NPBで目標にしているのは福岡ソフトバンクホークスの高橋礼投手です。最終的に高橋投手の球速を超えたいと思っています」

少しおっとりとした口調で、しかし迷いない言葉でそう答えてくれた。高橋礼と言えば、2018年の日本シリーズ第1戦でアンダースロー史上最速の146キロを計測した、現在のNPBを代表するサブマリンだ。千葉の自然に囲まれた市原市で精を出す松平は、齢十六にしてそれを超えたいと言ってみせた。

恵まれた身体から繰り出される、そのアンダースローピッチ。自分で考え、悩み、壁にぶつかりながら、あと2年の高校生活を実りあるものとし、さらに先へと進んでいくのだろう。彼の成長は、まだ始まったばかりだ。

※一部敬称略

(取材・文・撮影/山口真央)


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