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U18で得た経験を糧に、水上桂(明石商)が見据える次のステージ

2019.10.15

夏の甲子園が佳境を迎えた準決勝終了後、今年のU18ワールドカップ大会の20人のメンバーが発表された。自身が選ばれたことを受け止めたと同時に、水上の心にはこんな率直な思いが立ち込めた。
「何で自分? って思いました。ホンマに自分でいいのかなって。今年はいいキャッチャーが多かったし、“何でお前やねん”ってネットで叩かれるんちゃうかって思いました(笑)」。

 今年の高校野球界は、近年稀に見る“キャッチャーの当たり年”だった。1年秋から注目されてきた東妻純平(智弁和歌山)、有馬諒(近江)や、同じ夏の甲子園4強の藤田健斗(中京学院大中京)、小山翔暉(東海大菅生)…。しかも、水上は4月に行われた日本代表一次候補合宿にも召集されていない。だが、正確なスローイングと二塁への送球が1.8秒〜1.9秒を計測する強肩は、知る人ぞ知る評判の高さだった。

 とはいえ、レベルの高い数多くの捕手陣の“激戦”の中で選考された日本代表。夏の甲子園の準決勝で履正社に1−7で敗れ、帰郷後休む間もなく合宿に合流した水上は、疲れよりも「ワクワクしかなかった」と代表に加わるのが楽しみでしかなかったという。

 集合後、早速練習ではブルペンで投手陣のボールを受けた。同じ捕手で選ばれた山瀬慎之助(星稜)は甲子園の決勝に進んで遅れて合流するため、まずは自身で全員のピッチャーのボールの感触を確かめた。

 その中で最初に衝撃を受けたのは、やはり佐々木朗希(大船渡)だ。
「普段も(最速151キロ右腕の)中森(俊介)のボールを受けていますが、とにかくすべてが衝撃でした。中森のボールを受け始めた頃、左手の指の付け根が腫れてしまったんですけれど、佐々木のボールを受けた時、あまりのスピードに人差し指が飛んだかと思いました(笑)」。

 韓国滞在中、試合後に水上が左手人差し指の付け根を見せてくれたことがあった。確かに他の箇所に比べて人指し指の付け根が太い。聞くと中森のボールを受けるようになってから太くなったのだという。だが、佐々木のボールは中森のボールとは比べものにならないほどの衝撃で、「しばらく腫れて、ちゃんと捕球できるのか不安だった」と振り返る。

 だが、日本代表レベルの投手陣のボールを受けて痛感した“違い”がある。
「一番驚いたのは、やっぱり球質です。ストレートに関しては中森の151キロと、日本代表になったピッチャーの151キロはキレや伸びが全然違いました」。

 ストレートは“衝撃”で形容できるが、変化球に関してはそれぞれの投手の持ち味があった。特に奥川恭伸(星稜)のスライダーは、映像で見る以上の驚きがあった。
「最初は(スライダーを)まともにとれませんでした。中森の変化球はある程度予測して構えられるんですけれど、奥川君のスライダーは曲がりすぎて、一瞬浮いてくるんです。あんなスライダーは初めて見ました。自分は的で構える方なのですが、奥川はここというところにちゃんとボールが来るんです。力を抜いて投げている訳でもないのに…」。

 普段はミットを下から構えて捕球をするが、奥川のボールを受けると、ついついボールを追いかけてミットが落ちてしまっていた。小学校3年からバッテリーを組む山瀬は“慣れ”があるとはいえ、それでもちゃんと捕球している。山瀬はどうしても強肩がクローズアップされるが、奥川が安心して投げられる術も持っている。
「山瀬はキャッチングがいいですし、場面が悪くてもフォークや変化球を状況を恐れずに要求できて、ちゃんと生かせているのがすごい。練習で山瀬のミットを貸してもらったことがあったんですけれど、すごく重たかったんです。あんな重たいミットを使いこなせてるんやって、ビックリしましたよ」。

 何より水上が感銘を受けたのが奥川のマウンドでの姿勢だ。ピンチでも周りを見て、積極的に声を掛ける。奥川がすごいのは、投げるだけではないことをあらためて知った。
「カナダ戦でホームランを打たれた後も、野手にまめに声を掛けていました。だいたいはホームランを打たれたら下を向いて何も言わずに投げて、ベンチに戻るんですけれどね。あれだけ声を掛けられたら、野手も“任しとけ!”って気持ちになりますよね」。


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