昨春センバツでは創部54年目で初めて甲子園出場を果たすと、初戦でおかやま山陽を7−2で下し、記念すべき甲子園勝利を挙げた乙訓高校。強豪校ひしめく京都から虎視眈々と夏の甲子園を狙う公立高校を取材した。
京都府の西部に位置する長岡京市に学校があり、阪急長岡天神駅、JR長岡京駅の近くに校舎があることから交通の便がとても良いことも知られている乙訓高校。普通科と、府内で唯一のスポーツ健康科学科があり、運動部もとても盛んだ。
グラウンドはいわゆる学校のグラウンドだが、グラウンドに着く前にまず大きな室内練習場があることに驚く。40m×20mの広さは公立校ではなかなかない。グラウンドは両翼が102m、センター後方は124mと十分な広さがあり、外野部分は天然芝となっている。ただ、グラウンド後方では陸上部が練習することもあり、その際は外野後方をネットで仕切り、限られたスペースをうまく活用する。
野球部はほとんどの部員が普通科だが、曜日によって授業が終わる時間が違うため、全体練習の開始時間は曜日によって異なる。遅い時は4時半ごろから始まり、冬場は明るいうちに練習が始められないことも。授業が早く終わった選手から順次各自でアップを始め、全員が揃うまで個人練習を行うことも多い。
全体練習を始める前、まず全員でチームの理念を唱える。
「決勝戦で通用する選手になるために、努力を惜しむな。勝つこだわりを持ち、目指すは甲子園ベスト8!」。
乙訓独自のアップのメニューで「アジリティ」という練習がある。体のキレを出すことが目的で、小さなコーンを置き、バウンディングやジャンプ系の動きが中心となる。今年で就任5年目となる市川靖久監督は瞬発系の動きを重視しており、「野球の全ての動作に繋がっていく」と、積極的に練習の中に取り入れている。
大きな声を全員で響かせたのち、グラウンドに散らばってキャッチボールが始まった。
昨春センバツでは創部54年目で初めて甲子園出場を果たすと、初戦でおかやま山陽を7−2で下し、記念すべき甲子園勝利を挙げた。センバツ出場を決めた一昨秋の近畿大会では、神港学園、智弁学園といった甲子園常連校相手でも物怖じしない選手たちの戦いぶりが印象的だった。
実は甲子園でも緊張している選手がほとんどいなかったと市川監督は記憶している。
「近畿大会でもそうでしたが、予想以上に生徒らは落ち着いていて、すごい選手を見ても圧倒されることがほとんどなかったです」。初出場のチームの選手だと、普通なら浮足立って普段通りのプレーができないことが多い。だが、乙訓の選手は大きなミスをすることもなく、終始自分たちのペースで試合を進めていた。