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【八王子学園八王子】強敵に立ち向かうために「徹底力」を鍛える「ありんこ軍団」(前編)

2019.5.20

2016年夏に悲願の甲子園初出場を果たした八王子学園八王子。早稲田実業や東海大菅生といった全国トップレベルのライバル校に対し、統率の取れた全員野球で挑んだ「ありんこ軍団」の戦いは多くの人に感動を与えた。先輩たちが成し遂げた偉業に続くため、厳しい練習に励む現在のありんこ軍団の姿を取材した。


都大会予選ブロック敗退からまさかの甲子園

広大な丘陵を開発し作られた多摩ニュータウンの一角にある南大沢駅(もしくは橋本駅)からバスで約10分。西小学校前バス停からゆったりとした坂を登ると八王子学園八王子が活動する上柚木グラウンドが見えてくる。選手たちは授業を終えると監督やコーチが運転するマイクロバスに乗り込み、西八王子にある校舎から約30分かけて移動するのが日課だ。寮生もいるが部員の半数以上は自宅からの通いであるため練習時間は限られる。



チームを指揮するのは現役時代(桜美林→日体大)に投手兼外野手としてプレーをした安藤徳明監督。2000年に八王子学園八王子に赴任するまで、公立の中学校教師として女子バスケットボール部全国大会優勝といった異色の経歴を持つ。

2006年にチームを甲子園に導いた安藤徳明監督。公立の中学校教師として女子バスケットボール部を全国大会優勝に導いた経歴も持つ。

「学生時代から『高校野球の指導者になりたい』と思っていたのですが、教育実習で中学校に行ったとき中学教師としてのやりがいを感じたんです。勉強も野球も教えれば教えるほどドンドン伸びていく。バスケットボールの経験は全くないのですが、上からガミガミ言うのではなく、子どもたちとしっかりとコミュニケーションを取り、信頼関係を築くことが結果に繋がると学びました」。

畑違いのスポーツで結果を残したことが評価され、前任監督である池添法生氏から声をかけられた。コーチを経て監督に就任した後は、毎年コンスタントに結果を残すものの、肝心なところで強豪校の壁に跳ね返され続けた。しかし、諦めることなくひたむきに戦い、2016年夏ついに創部初の甲子園出場を決めた。

「決勝戦を終えた後、池添さんと『まさかこのチームが甲子園に行くとは……』と口を揃えたことを今でも覚えています。なにせ秋の都大会では予選ブロック初戦で負けた代ですから。でもその結果が『自分たちには力がない』という危機感を植えつけてくれました。オフの練習もそれまでとは大幅に変え、指導方針も見直しました。チームとしてのまとまりは今まで見てきた中でも群を抜いて良かったです」。

トレーニングを疑い、理解することが大切



高校野球のオフトレ―ニングは一般的に身体に負荷をかけるウエイトや、走り込みといった練習で高校野球に耐えうる肉体を作る。2016年までは八王子も多分に漏れず、そういった厳しいトレーニングで夏に備えていた。

「いくら弱くても厳しいオフを過ごせば、ベスト8までは行けるだろうという自信はありました。しかし、その先に進める可能性は極めて少ない。また、身体に負荷をかけることは大人が思っている以上に、選手たちへの負担が大きいのではないのかといった疑問もありました。そこで『思い切ってオフトレーニングは止めてしまおう!』と決心したんです。その分バントやエンドランといった機動力を鍛える時間に費やしました。さらに『野球経験者なら普通わかるでしょ?』といった考えを見つめ直し、少年野球のようにボールの握りや基本的なセオリーといったものを一から丁寧に教えていったんです」。

機動力という武器を磨き、技術や戦術に関する知識を一から学び直したことで徐々にチームは良い方向に進みだしていく。さらに、部を引っ張る3年生のひたむきな姿勢が後輩たちに刺激を与えた。

「3番を任せていた右打者の椎原崚(現・成蹊大)が象徴的な選手で、バッティング練習ではずっと右に打っていました。『練習だから、たまには思い切り引っ張ってみたら?』と私が提案しても『いや、大丈夫です!』と言い、ひたすらチームバッティングに徹していましたね。パワーがあるにも関わらず、自分の欲を押し殺す彼のような選手がいたからこそ、チームはまとまることができたと思います」。


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