高校卒業後、「硬式ではちょっと実績が足りない」、あるいは「学業やアルバイトなど自分の時間も大事にしたい」と思う球児たちが、それでも本気で野球に取り組む場所、それが準硬式野球だ。大学準硬式の“王者”中央大学の練習グラウンドに先輩を訪ねた。
準硬式野球とは?
グラウンドの広さ、試合ルールなどは硬式野球とほぼ同じだが、ボールは硬式球と同じコルクで出来た芯に表面を軟式球のようなゴムで覆った準硬式球を使用する。各地の大学や社会人などにもリーグが存在し、リーグ戦やトーナメントが開催されている。とくに大学では競技者人口も多く、全国の多くの大学に部があり、大学選手権(インカレ)優勝の実績を持つ中央大学や日本大学などの強豪校には、高校時代に甲子園出場経験を持つ選手も在籍しプレーしている。過去にはドラフト指名を受けプロ野球に進んだ選手もいて、実力的にはハイレベル。限られた時間、練習環境のなかで練習に取り組む“自立した野球”が求められ、それが就職活動にも活かされている。
初めは「田舎者なので一度くらい東京で生活するのもいいかな」と軽い気持ちもあった千葉選手。だが何度か上京し体験入部を繰り返すうち、準硬式のレベルと中大の意識の高さを知る。池田監督とも何度も面談し、甘い話だけではなく、「練習は厳しいし勉強もしっかりやらなくてはならない」と説明を受け、「覚悟を決めて」入部したという。
それでも1年生の頃は、担当する仕事の多さなど、苦しさに耐える日々だった。高校時代の先輩との上下関係のような単純なものではなく、周りに気を遣ったり、言われる前に自発的に動いたりという“大人”の行動を求められる。「同じ思いを経験してきた先輩たちに支えてもらった」と振り返る。
中大では4学年32人の部員が体育会の合同の寮に入り共同生活。授業のある平日の練習は早朝、寮からグラウンドまで約4kmのランニングからスタートする。公式戦で授業に出られないときには一般学生からノートを借りて補習することも。“文武両道”に妥協は許されない。また硬式野球などの体育会にありがちな部員たちだけで固まるのではなく、野球だけではない、学校内外で様々な立場の人との交流を推し進めている。
4年生になれば、いよいよ就職活動が待っている。そこでも中大の部員たちは、大学のキャリアセンター(就職課)副部長でもある池田浩二監督に、下級生の頃から希望する業界情報の収集、エントリーシートの書き方や面接のノウハウまで細かな指導を受けてきた。その成果もあって、地元の東北電力にUターン就職する千葉選手を始め、今年の4年生もそれぞれの業種のトップ企業への就職を決めている。そういう先輩たちの姿を見て、下級生もまた就職への意識が高くなっていく。
そんななかで、インカレなどたくさんの大会で優勝を経験し、主将となった昨春には東都大学リーグでチーム通算62度目の優勝。充実した4年間を過ごした。華やかな硬式に比べると準硬式は確かに地味で知名度もない。それでも注目されるかどうかは選手たちの努力次第と、選手も監督・コーチも前向きに取り組んでいる。それが中大準硬式野球部だ。
「社会人になっても、少々のことではへこたれない心の強さは身に付いていると思います。苦しいこともたくさんあったけど、今は準硬式を選んでよかったと自信を持って言える。もし進路に迷っている高校生がいたら、薦めたいですね」 千葉選手は笑顔でそう言った。