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【アメリカ視点から見る高校野球】西東京大会決勝 早稲田実業vs東海大菅生

2015.7.29
 日本の国民的イベントである高校野球。
 久しぶりの夏を日本で過ごしており、地方大会からテレビで良く試合の模様を目にする。これほどまでに盛り上がりを見せるアマチュアスポーツは米国暮らしが長い私にとってはカレッジスポーツを連想させられる。

 記念すべき第100回の甲子園大会出場に向けて各地では熱戦が繰り広げられている。大阪大会の初戦で大阪桐蔭と履正社の激突、石川大会では昨年の逆転劇の再戦となった星陵と小松大谷、そして早稲田実業の清宮選手が連日スポーツ紙を綴っている。

 今回はその清宮選手を要する早稲田実業と東海大菅生の一戦に注目してみた。前日から清宮人気の影響で警備体制や開門時間を早めるかを検討するなどという報道も流れており、実際に試合開始3時間前に開門されたようだ。

 やはり高校野球の試合は見ていて清々しい。その模様はテレビの画面からも伝わってくる。自チームのアルプススタンドへ挨拶し、両チーム整列してからのプレイボール。良くみてきたアメリカのアマチュアスポーツではキャプテン同士が試合前に激励し合う様子は良く見るが、両チームの選手全員がグラウンドに出る姿は試合が終わるまでは見ない光景だ。あるとすれば国家斉唱の際に両チームが整列するぐらいか。

 日本ならではの細かい野球を象徴するプレーは3回表1死走者1塁の場面で見られた。ネクストバッターサークルには注目の清宮選手が控え、2番打者にはバントの指示があった模様。試合の序盤でチャンスを広げる機会を作るのではなく、一点を取りに行く野球。勝ったら甲子園、負ければ終わりの試合のため当たり前の戦術になるのかもしれない。だが結果的には清宮選手が2ストライクと追い込まれ、ランナーがスタートしてしまいタッチアウトとなった。そして早稲田実業はチャンスをモノに出来なかった後はピンチを招き、4点を先制されてしまった。主導権を奪われての清宮の第2打席は呆気なく三振に終わった。

 更には5点を追いかける7回表の攻撃でも下位打線に差し掛かっていたとは言え、1死走者1塁からの送りバントでアウトを一つ相手に与える形となり、結果論だが点にはつながらなかった。すると8回表の攻撃ではノーアウトから先頭の1番打者がヒットで出塁すると、続く2番打者にはバントの指示はなく、ヒットで出塁。続く清宮選手に繋げ、セカンドゴロに倒れるが、打線はつながりを見せ、この回に怒涛の逆転劇を見せた。

 この日も神宮球場は暑い日となっていた。東海大菅生は先発投手の勝俣投手を150球超えても続投させていた。押し出しによる同点となる得点を許したところで交代させた。一度は他の選手にマウンドを譲り、ライトのポジションに付くが、9回には再びマウンドに戻った。これほどまでに1人の投手に頼らなくてはいけないのは、ユーテリティー性や順応性を育てるよりは、あるポジションに一貫した育成法が主流だからではないだろうか。

 アメリカでは季節によって、いろんなスポーツを経験し、ドラフトにかかるような選手でも他の競技をプレーしていることは珍しくない。プロに入ってからもポジションチェンジをする例も多い。非常事態に備えて、第2、3の投手の練習はさせるのだろうが、甲子園を決める試合や本大会では猛暑の中ピンチを背負い、球数が嵩んでも自信を持ってエースを交代する場面は少ない。

 日本では部活制度があり、特に甲子園を目指す強豪校の選手が二つのスポーツを同時にプレーしている事などはあり得ないだろう。そしてエースで4番という高校では昔ながらの「二刀流選手」はいるものの、なかなか投手を多く育てられる環境というのは難しいだろう。各地の予選大会でも終盤に試合をひっくり返される逆転劇が多い要因の一つではないだろうか。


<著者プロフィール>
新川 諒(しんかわ りょう)
幼少時代を米国西海岸で10年過ごし、日本の中高を経て、大学から単身で渡米。オハイオ州クリーブランド付近にあるBaldwin-Wallace Universityでスポーツマネージメントを専攻。大学在学中からメジャーリーグ球団でのインターンを経験し、その後日本人選手通訳も担当。4球団で合計7年間、メジャーリーグの世界に身を置く。2015年は拠点を日本に移し、フリーランスで翻訳家、フリーライターとして活動中。


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