スポーツには体力や技術だけではなく、観察眼を必要とするときがある。
特に野球は“間のスポーツ”といわれ、一つのプレーに対し考える時間が長いため、他のスポーツに比べ観察眼が重要となる。
しかし、観察眼とは単純にプレーや相手チームを見ればいいというものではない。見たものから有益な情報を抽出するための思考力や判断力も必要だ。
今回は卓越した観察眼を持つ里崎智也氏を監修に迎え、観察眼の磨き方をレクチャーしてもらった。上級者への足掛かりとなる必須スキルをぜひ身につけよう!
観察眼を磨くとこんないいことがある!
・練習の効率がアップする
・情報収集力が上がる
・自分で考える力がつく
・状況分析ができるようになる
・ピンチのときも冷静になれる
観察眼のない選手はいつまでたっても上達しない
第1回WBCでは日本を世界一に導いた名キャッチャー里崎智也氏。プロの世界で長年活躍した背景には、卓越した『観察眼』があったという。自身の成功体験をベースに、観察眼について語ってくれた。
観察眼=気づく力
己を知ることが大切
観察眼を使って生きる人間と、何も考えずに過ごしている人間では成長スピードが違ってきます。観察眼とはズバリ“気づく力”なのです。自分自身のことはもちろん、他人の些細な変化や特徴に気づけるか、気づけないかということですね。野球でも一流のプレーヤーには突出した観察眼があります。ここで球児の皆さんに観察眼を磨くコツを伝授しましょう。
まず、重要なことは自分自身を知ること。自分のことを十分に理解していないにも関わらず、他人のことを知ろうとしても限界がありますよね。自分の性格や能力、長所や短所を過信せず、客観的に理解することが大切です。その方法の1つとして、野球選手なら野球に関わる能力を細分化して測定してみるといいでしょう。正確な数値を出し、定期的に記録していくことで自分が思う自分と実際の自分のズレを直していくことができます。
己を理解できるようになったら、他者を知る。身近な他者といえば、チームメイトですね。自らが経験してきたことをフル活用して、チームメイトの性格やプレースタイルまで理解できるように観察しましょう。ここでも、数字を取り入れるとチームメイトのことが、より客観的に理解できるようになります。
己を知り、チームメイトを理解できることができて、ここでやっと対戦相手に目を向けられます。試合は対戦相手が決まった瞬間から始まっていると言っても過言ではありません。試合前に相手チームを研究し、クセや傾向を読み取るようにしましょう。そこから、試合当日の作戦の土台となる仮説を立てる。しかし、仮説はあくまで仮説です。間違っている部分があれば試合中に再度仮説を検証し、修正します。そして、試合で得た新たな発見があればアップデートします。そうすることで観察眼はより磨かれていきます。
世界大会で生きた観察眼
確信あったインコース8球
実際に私の観察眼が生かされた試合として第一回WBCのメキシコ戦は今でも鮮明に覚えています。日の丸を背負うプレッシャーのなか、試合の序盤にワンアウト三塁という大ピンチ。そこで私は松坂大輔投手(現・中日ドラゴンズ)にインコースを8球連続で要求しました。パワーのある外国人打者に向かって「危険」「無謀」など当時、評論家の方々から非難されましたが、マスクを被っていた私には打ち取れる確信がありました。松坂投手の球は大会中で一番走っていたし、打者のバットの握りや構え、タイミングの取り方をくまなく観察していました。そして、たどり着いた答えがインコースだったのです。テレビ越しではわからない微妙なクセや仕草というのがあります。今まで培ってきた観察眼をフルに生かしピンチを脱し、チームを勝利に導くことができました。
しかし、私は高校時代から観察眼があったわけではありません。プロに入り、今のままでは通用しないと感じ、観察眼を磨くことに集中したんです。地道な努力を繰り返し、自分だけではなく、チームメイトや相手チームを観察する習慣が身についたことで、大舞台でも冷静に相手のどこを観察すればいいのかが自然とわかるようになってきました。
球児の皆さんには、ぜひともこの観察眼というスキルを早い段階から習得して欲しいですね。試合に勝てる確率もグッと高くなるし、上達すること間違いなし。観察眼を発揮してチームを勝利に導けば、今とは違った新しい景色を見ることができるはずです。
里崎 智也(Tomoya Satozaki)
1976年5月20日生まれ。徳島県出身。鳴門工業から帝京大。98年にドラフト2位で千葉ロッテマリーンズに入団。2005年、10年には日本一を経験。06年の第1回WBCでは正捕手として世界一に輝く。現役引退後は野球解説者として活躍中。