学校・チーム

【山梨学院大学附属高校】個人の長所を伸ばし力負けしないチームを作る

2015.6.2

長崎・清峰を率い、春夏5度の甲子園出場を果たした吉田洸二監督。2009年にはセンバツで日本一。2013年春からは山梨学院大附属の監督となり、翌春センバツ出場。その成果を支えているのが、吉田監督が力を入れるトレーニングの数々である。

【体力がなければ全国では勝てない体作り=トレーニング+食事】
吉田監督が本格的に体作りに着手したのは、清峰時代のこと。2006年センバツ決勝で横浜に0対21の大敗を喫してからだ。
「あの代は技術的に高いチームでした。ただ、決勝で感じたのは体力の差。決勝では、足が動いていない選手がいました」
地元の支援者からは「田舎の子が体力で負けるのはおかしいだろう」という叱咤激励もあった。
「体力がなければ連戦では勝てません。特に夏に勝ち抜くことを考えると、体力は絶対条件になります」
清峰時代に行っていたのが、5キロの丸太を胸の前でかかえ、300メートルダッシュ60本など、過酷なトレーニングだ。横浜に負けてからはさらに過酷になるとともに、食事にも力を入れた。
「トレーニングのあと30分以内に、必ずたんぱく質とカルシウムを入れる。これによって筋肉が作られていくのです」
この考えは、山梨学院大附属に移ってからも変わっていない。トレーニングのあとはプロテインでたんぱく質を補給。さらに、各自が持参したチーズなどでカルシウムを摂っている。
トレーニングと食事は、体を作るうえでの両輪。どちらかひとつだけでは、理想の体を作ることはできない。



【なぜトレーニングをやるのか?パフォーマンスを高めるため!】
「大事なことは何のためにトレーニングをするのか、ということです。それは、選手のパフォーマンス能力を高めるため。そこを常に頭に入れています」
これが、吉田洸二監督が考えるトレーニングの根本だ。
「得てして、指導者は自己満足に陥りやすいんです。『これだけトレーニングをやったから』という気持ちの面にいきやすい。でも、パフォーマンス向上につながっていなければ、どうなのかなと思うのです」
取材をした今冬のテーマは「長所を伸ばす!」。個々の特徴を最大限に生かす取り組みをしている。たとえば、食事でいえば、「身長−100<体重」が理想型だが、細身で足が速い選手は、体重が増えることでスピードが鈍る恐れもある。
「食事の量は選手によって、違います。茶碗3杯の選手もいれば、茶碗1杯の選手もいる。体重を増やしてほしい場合は、さらにお餅を5個食べることもあります」
ポジションによっても違いがあり、ピッチャーは重たい器具を持っての筋肥大を狙ったトレーニングよりも、軽い器具で速い動作を行い、瞬発系を鍛えるのが主。可能な限り、それぞれの特徴を伸ばす方向でメニューを組んでいる。



【ケガに細心の注意を払う慢性疲労を取り除く休養日】
「全くケガをしないトレーニングは、トレーニングじゃないと思っています」
ドキリとする発言が飛び出した。もちろん、だからといって、ケガをさせていいというわけではない。
「ケガをさせないギリギリのところまで、いかにやらせきるか。それは山梨に来てから、より深く考えるようになりました」
清峰のときは丸太を持ってのダッシュやスクワットなど、全国的にもトップクラスのハードなトレーニングを課していた。これによって、全国で戦える体が作られたのは事実だが、一方では腰などを痛める選手もいたのだ。
「正直、今の山梨学院で清峰と同じことをしたら、ケガ人が続出してしまいます。指導者として、ケガだけはさせないようにしなければなりません」
そのために取り入れているのが、完全休養日だ。週1日、月曜日が休みとなる。
「ケガにつながりやすいのが慢性疲労です。疲れが抜け切れない中でトレーニングをするので、どこかを痛めてしまう。それに、トレーニングというものは人間の精神状態に影響しやすいもの。精神状態がよくないと、自分自身を追い込めなくなる。心が参っていたら、最後までやりきることができません」
山梨学院大附属はグラウンドの横に寮が完備されている。1人1部屋ではないため、チームメイトと同じ空間で過ごす。
「清峰は自宅からの通いだったので、一人で寝ることができる。でも、ここではそうはいかない。知らず知らずのうちに、精神的なストレスもかかるものです」
そういう意味でも、ゆっくり過ごせる日を作る。指導者も月曜日は休み。リフレッシュした状態で、火曜日からの練習に臨む。
「あとは、指導者が選手を見る目が大事。日頃、歩いている姿を見ただけで『どこか、足が痛いのかな?』とわかるようにならなければいけない。選手は痛くても『大丈夫です!』と言う場合がありますから」
選手の申告ではなく、指導者の目で練習ができるかどうかを判断する。これもまたケガ人を減らすためには欠かせないことである。



【アップ=トレーニングの考え方シーズン通して1時間のアップ】
具体的にどのようなトレーニングをしているのか紹介したい。
まず、特徴的なのが毎日1時間強かけて行うアップだ。外野をめいっぱい使ったランニングから始まり、肩甲骨や股関節をほぐす運動、さらには室内練習場で腕立て・腹筋・背筋に取り組み体幹強化。再び外野に戻り、ダッシュ系を行っていた。
体幹トレーニングの数をチェックしてみると、腕立て90回、腹筋80回、背筋150回。毎日積み重ねることによって、夏に勝負できる体ができあがっていく。
「アップというよりは、トレーニングですね。シーズンに入ってからも1時間近くはみっちりやります。このアップをしっかりできなければ、どれだけ野球の力があっても公式戦では使いません。こういった取り組みに関しては、厳しく接しています」
誰が高い意識で取り組んでいるかは、選手同士がよくわかっているもの。「あいつはやっている」「あいつはさぼっている」と。それなのに、真面目にやっていない選手が試合で使われると……、「何で?」となりがちだ。そこから連携が乱れていくこともある。
「ほかの高校と比べて、メニューの内容にはそれほどまでに違いはないと思います。大事なのは、しっかりとやりきれるかです」
ダッシュであれば、ゴールラインまで全力で走っているか。体幹トレーニングであれば、最後の1回まで腕立て伏せをやっているか。このわずかな差が、最終的に勝敗につながっていくこともあるわけだ。



【ウエイト場でのトレーニング 上半身と下半身を分けて鍛える】
アップのあとは3班に分かれて行動し、30分でローテーション。このうち1班はウエイトトレーニング場で、器具を使ったトレーニングを行う。
「主には火曜と木曜が上半身、水曜と金曜が下半身を鍛える日で、曜日ごとに分けています。これはシーズンに入ってからも変わらないことですが、オフシーズンのほうがメニューはハード。冬は筋肥大、シーズンに入ってからは筋力維持がテーマになります」
ケガを抱えている選手は、加圧トレーニングに取り組む。加圧ベルトを足や腕の付け根に巻き、一時的に血液量を制限した状態を作る。体内の酸素が薄い状態となるわけだ。結果、脳がハードなトレーニングをしていると錯覚して、通常のトレーニングよりも多くの成長ホルモンが分泌するという理屈である。
そして、トレーニングのあとにはもちろんたんぱく質とカルシウムを補給。栄養を摂らなければ、体は変わっていかない。



【これが山梨学院のカラダづくりトレーニングだ!】
この日は筋肥大ではなく、心肺機能を高めるのがメイン。2人一組となり、5種類のメニューを3セット行う。重さはMAXの4分の1程度の軽さ(100㎏がMAXであれば約25㎏)。
驚いたのは、インターバルの時間だ。メニューからメニューに移る時間が、わずか10秒。息が上がった状態で、次のメニューに取り組む。
「サーキットトレーニングに近い考えで、心肺機能を高めていく。シーズンが始まると、筋肥大の日が減り、このようなメニューが増えていきます」(吉田監督)
このトレーニングだけで十分きついのだが、「2分後に体幹な!」と、指導していた菊池コーチの声。徹底的に鍛え上げる!

マットを引いて行う体幹トレーニング。足を上下に動かしたり、クロスさせたり、7種類のメニューをそれぞれ30回、合計210回。これを1セットではなく3セット。つまりは、合計630回の腹筋をこなす。
これはピッチャー陣の特別メニューで、野手陣はウエイトだけで終わり。それだけ、ピッチャーは体幹が必要ということである。アップでの腹筋も含めると、この日だけで約700回の腹筋に取り組んだことになる。




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■野球部・監督:吉田洸二 
1969年生まれ、長崎県出身。長崎で高校野球の指導を始め、清峰を甲子園常連校に育てる。2009年にセンバツ制覇。2013年春から山梨学院大附属の監督に就く。
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◇SCHOOL DATA(2015年3月時点)
山梨学院大学附属高校(山梨県)
●創部/1956年 
●創立/1957年 
●監督/吉田洸二
●部長/田中信幸 
●コーチ/菊池徹
山梨県甲府市にある男女共学の私立校。松本哲也(巨人)ら、これまで11名のプロ野球選手を輩出。春夏6度の甲子園出場を誇る。スポーツが盛んで、サッカー部は2009年度に行われた全国高校サッカー選手権大会で初出場初優勝を遂げた。
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(Timely! 2015年3月号掲載)
取材・文=大利 実  写真=小沢朋範



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