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【高校球児のための大学野球部ガイド】桐蔭横浜大学を紹介(前篇)

2017.7.24

桐蔭横浜大学野球部を率いる齊藤博久監督

高校球児のための大学野球部紹介。第一回は神奈川大学リーグに所属する桐蔭横浜大学を取り上げます。

桐蔭横浜大の野球部は2006年創部の比較的新しいチーム。創部7年目の2012年秋には明治神宮大会を制し、神奈川大学野球連盟として初の全国大会優勝を成し遂げている。その後も好成績を残し続けており、過去10年間(2007年秋〜2017年春)のリーグ戦優勝回数は10回と2位の神奈川大(5回)を大きく引き離している。その強さの秘密を探るべく、6月下旬の練習を取材した。


大学名に「桐蔭」とつくことからも分かる通り、神奈川県内でも屈指の野球強豪校である桐蔭学園は系列の高校である。しかし先述したように大学の野球部の歴史は新しく、桐蔭学園の主力選手は東京六大学や東都大学のチームに進むことが多いため、内部進学してくる選手はごくわずかである。先月行われた大学選手権でベンチ入りした25人の中でも甲子園出場経験がある選手はわずかに4人。卒業後にプロ入りした東明大貴(富士重工業→オリックス)、横山弘樹(NTT東日本→広島)も高校時代は全く無名の投手。現在のレギュラーも大学で伸びたという選手が多い。そこで創部以来指揮を執る齊藤博久監督に、どのような方針で指導を行っているか話をうかがった。

「まず気をつけていることは、選手達が今まで高校でやってきたことを否定しないことです。うちで野球をやりたいという選手は全国的な強豪校出身ではなくても、それまでに積み重ねてきたものがあり、自分の高校の練習に自信を持っています。それを最大限生かすことを心がけています」

水戸短大付属高校(現水戸啓明高校)の監督時代にはセンバツ出場の実績もある齊藤監督だが、当時とは指導法も大きく変わっているそうだ。

「高校の監督の時は1から10まで全て自分が口を出さないと気が済みませんでした。それで結果が出た時期もありましたが、一度野球の指導現場を離れた時に色々なことを勉強して、監督の役割は戦術を明確にすることと選手をどう起用するかということに尽きると考えるようになりました

現在は実際の練習メニューも選手達が提案してきたものを確認するというスタンスをとっています。だから見てもらえれば分かると思いますが、うちの選手たちは練習をやらされていない。当然厳しいメニューもありますが、それも自分達で決めたことなので楽しみながら取り組んでいます

実際の練習風景を見ていても非常に活気があり、そんな中で齊藤監督は全員のプレーをしっかり見ている様子が印象的だった。現在の部員数は180人の大所帯だが、コーチや学生コーチとも連携し、二軍の選手のプレーぶりも常に気にかけているという。

リーグ戦の途中でも二軍の選手を一軍に上げて、いきなり中軸に抜擢するようなこともあります。それは対戦する相手投手のタイプやこちらの選手の状況を考えて抜擢するのですが、そのためには選手の動きをよく見てなければいけません。自分で言うのもなんですが、そういう選手がよく打ったりするんですよ(笑)。そんなことがあると選手も『監督はしっかり見ていてくれる』ということがよく伝わりますし、今は二軍にいる選手も腐らずに練習に取り組むようになります」

お話を伺わせていただいた齊藤博久監督

昨年秋のリーグ戦の最終節。ここで勝ち点を落とせば最下位となる状況だったが、初戦はリーグ戦初出場の大神田丈(日大明誠)が一発を含む2打点の活躍で勝利。

第2戦を落として3戦目も苦しい展開だったが、同点で迎えた最終回ツーアウトランナー無しから代打で起用した山縣佑樹(桐蔭学園)がサヨナラホームランを放つ劇的な勝利で入替戦を回避した。そしてこの時、齊藤監督は勝つならここでホームランしかないと考え、山縣に「ホームランを打ってこい」と言って送り出したというのだから驚きだ。普段から選手の動きを絶えず気にかけ、最適な起用法を考え続けていなければ、このようなことは起きないだろう。

そんな齊藤監督に高校生の選手を見る時のポイントについても聞いてみた。
「ポジションによっても違いますしいろんなタイプの選手がいるので“これ!”というようなことは言えないのですが、野手であればまずバットをしっかり振れることでしょうか。ただそうでなくても特別足が速いなどの一芸があればそれでもいいと思っています。あとはチームをまとめるような力のある選手はいいですね。だからその選手がキャプテンだったかどうかも確認します。キャプテンを経験している選手は視野が広いことが多くて、チーム全体のことを考えられる。キャプテン経験者が多い学年は強いですね

更に高校時代に身につけておいた方が良いもの、大学で伸びる選手の特徴、高校球児が大学でプレーを続けるうえでのアドバイスについても聞いてみた。

「技術的なものはもちろんありますが、まずは野球が好きで向上心があるというのが大前提ですね。月並みな言い方になりますが、真摯に野球に取り組める選手がやはり伸びると思います

アドバイスとしては高校野球を引退してから大学に入学する期間にもしっかりと練習すること。多少遊んでも良いとは思いますが、この期間にしっかり練習してきた選手はすんなり大学野球にも入れると思います。

プロに行った東明(大貴・オリックス)は高校の現役時代に見た時はそれほど目立つピッチャーではなくて、特待生でもなかったんですね。ところが入部してきたら凄くいいボールを投げる。1年春には1試合でしたがリーグ戦でも投げて、その秋からはエース格になりました。高校野球を引退してから相当しっかり練習してきたようです

東明投手は岐阜県の富田高校の出身だが決して強豪校ではなく、東明投手自身も夏の県大会の初戦で敗れている。そこからプロ入りするまでに成長する第一歩は、高校野球を引退してから大学の野球部に入部する期間の練習にあったと言えるだろう。

練習に取り組む桐蔭横浜大学野球部の選手達

桐蔭横浜大の野球場は桐蔭学園と共用であり、午後からは高校の練習が優先されるため大学の練習は午前中に行っている。全体練習の開始時間は8時、終わるのは11時半。その後ミーティングなどを行っても、午後からは完全に自由の時間になる。また、寮に入っている野球部員は一部であり、自宅生や周辺で下宿している選手が多いのも特徴。多くの部員は午後や夜のあいた時間にアルバイトもしているそうだ。

そして桐蔭横浜大の最大の特徴は選手中心のチーム運営にある。投手、捕手、内野手、外野手、バッティング、バント、走塁の7部門にそれぞれチーフを置き、その選手が中心となって練習メニューを決めているのだ。監督、コーチと7部門のチーフは2週間に一度ミーティングを行い、その期間に何を注力してどんなメニューを消化するかをチーフから提案するという。そして齊藤監督はその提案に対しても決して否定はせず、選手の考えを尊重するようにしているそうだ。

こちらが否定してしまうと選手が考えなくなります。まずは『よし分かった』と聞いたうえで、気になることがある時は『こういうところは考えたか?』と問いかけるようにしています。普段の練習でも直接自分が言うのではなく、気になることはコーチやチーフと話をします。

そうすることでチーフも選手も自分達で決めたことだということで責任感も出ますし、練習の効果も上がると思います。優秀なコーチがいるからできることではありますが、もし自分が今から高校野球の監督をするとしても同じ方法をとると思います。こちらが与えるだけでは選手が考えないようになりますから」

その一貫した指導が桐蔭横浜大の強さだと感じる力強い言葉だった。

後編はチーフを務める選手の話などをお伝えします。


(取材・撮影:西尾典文、編集部)

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