
夏の県大会では6連覇を達成している昨夏の全国王者・作新学院。栃木県内ではまさに横綱と呼ばれる存在だが、今年はすんなりと連覇の数字を伸ばせるような雰囲気ではない。その対抗となる一番手が白鷗大足利だ。春の県大会決勝では作新学院を相手に5対0で完勝し、県内の公式戦の連勝を16でストップさせた。作新学院を完封した右腕の仁見颯人、最速145kmを誇るプロ注目のサウスポー北浦竜次という二人の好投手を揃え、県大会5試合で46点を奪った強力打線も誇る。
「ストップ作新」に向けて取り組む、白鴎大足利高校野球部の練習を取材した。

チームを指導する藤田慎二監督は同校のOBであり、白鷗大を経て社会人野球の七十七銀行でもプレーした強打の内野手だ。社会人8年目の秋に母校から監督してのオファーを受け、悩み抜いた末に承諾。08年の4月に監督に就任し、その年の夏にはいきなり甲子園出場を果たす。藤田監督は当時29歳。順調過ぎる船出だったが、そこから苦難の日々が続いているという。
「監督としてのお話をいただいた時は翌年もプレーするつもりだったので本当に悩みました。現役選手からいきなり監督になってノックも遊びでしか打ったことなかったので、最初は選手に『打球が速すぎます』と言われたこともありましたね。でもその夏にいきなり勝ち進んで甲子園に出られた。正直、こんな風に勝ってしまっていいのかと思いました。でもそれからが地獄の始まりでしたね(笑)。それ以降、佐野日大さんが一度出ていますがその後はずっと作新が連覇。センバツには一度出させてもらいましたが、秋の関東大会は一昨年も去年も1点差で負け。最初の夏に(運を)全て使い果たしたんじゃないかと思う時もあります(笑)。」

冗談めかして話す藤田監督だが、大学、社会人で培った経験とそれに裏付けられた指導で年々チームが力をつけていることは間違いない。そんな藤田監督にバッティングについて重要視していることも聞いた。
「まずはとにかく強く振れることが大事だと思っています。いくらきれいに打ち返しても強い打球を打たなければヒットにはなりません。そのためには当然体を大きくする必要もあります。バットを振るのもただ数を振ればいいとは思いません。たとえば1000回素振りするぞとなると、それだけ数を振らないといけないと思ってどうしても力をセーブしようという意識が働きます。それではMAXの力は伸びないと思います。強く振るためには体の使い方をしっかり覚える必要があるし、バットの軌道も重要です。そういうことを意識した練習をしています」
狙いの見える打撃練習
この日のバッティング練習はアップ、キャッチボールと実戦を想定したノックが終わった後から行われた。バッティングピッチャーの投げるボールを打つケージは3か所と決して多くはなかったが、その後ろのバックネットでは種類を変えたティーバッティングが4ヶ所で行われていた。
まず面白かったのが地面に板を置いて、そこにワンバウンドさせてから打つものだ。
▼ワンバウンドのティーバッティング
トスする選手の動きに合わせて始動するが、ボールはバウンドしてから来るためスイングするまでに必ず一呼吸置く必要が出てくる。そうすることでいわゆる体の“割れ”を作り、間をとる訓練になるのだという。
その横で行われていたのはほぼ真横からトスするボールを打つ練習。
▼真横からのティーバッティング
一般的には斜め前方からトスされたものを打つことが多いが、この狙いについて会田泰輔コーチは「外のボールに対して体を開かずにしっかり踏み込んで打つためのものです。前から来るボールを強く打とうとして、どうしても体が早く開くことがあるのでそれを修正する狙いがあります」と教えてくれた。
藤田監督の話す通り、ただ数多くバットを振る、ボールを打つというだけではなく、しっかりと狙いの見えるバッティング練習だった。県大会で大量得点を奪った裏にはこのような練習の成果があったことは間違いないだろう。
後編は他にも工夫の見られた練習、大会前に意識して取り組んでいたことをお伝えします。(取材・撮影・西尾典文)